18.裏切りか、策略か(8)

 思い浮かべた形や色に影響されるため、想像力がないと魔力が高くても魔法を扱う能力が低くなるらしい。そこは幸いにして、ファンタジー映画を山ほど見てきた経験が役立った。


 練習中は、恥ずかしい長ったらしい呪文まで一緒に思い浮かべたため、詠唱しないと発動しないという羞恥プレイを晒した。この世界の連中って詠唱ないから、すごく恥かいたわ。


 キンッ! 想像通り、きちんと銃弾を弾き返してくれている。結界ならぬ逆さ傘の存在にほっとした。これで足を抜かれる心配はなくなる。


「防御壁か?」


「まさか……」


 かなり高度な魔法に位置づけられる防御壁と勘違いされたが、実際は身体を覆うサイズの小さな逆さ傘です。申告する必要はないので黙っておく。防御壁はひとつの戦場に立てると、圧倒的火力で破るしかない大きな壁だ。こんなチンケなサイズで作る発想は、異世界人ならではだとリアムが感心していた。


 オレにしてみれば、どうして他人まで守る大きな壁を張る必要があるのか、そっちが疑問だった。個々に小さな壁張った方が便利だよな。


「……とりあえず逃げる」


 下の2人の慌てふためく姿をよそに、情けない決意をして再び走り出した。靴の底が滑るので、魔法でズルして靴底を変更する。こういった小さな魔力を小出しに使うのも、高等技術らしい。彼らには複数の魔法を同時に使う発想がなかった。


 魔法が日常の国なのに、どうして発達しないのか。戦争だって、リアムの魔力があれば敵国を焼き払って終わりのような気がする。ゴジラみたいな感じな。


 そんな考え事をしながら移動したのが原因なのか。足を滑らせて落ちました――。


「っ……」


 息が詰まる。背中を強打した所為で、肺の中の空気をすべて一度に吐き出してしまった。想像できないかも知れないが、肺に空気がなくなると……まあ、潰れるわけだ。その肺に新しい空気を吸い込むのは至難の業で、本当に苦しくて力がいる。


 必死に口をぱくぱくさせて小分けに空気を送り込んで、やっと深呼吸できるレベルまで来た時には嬉しくて涙が滲んでいた。いや、名誉のためにいうなら『生理的な涙』ってやつ。泣いたんじゃないぞ。


「動くな」


 ガチャ……銃弾が装てんされた銃口が向けられており、当然ながら安全装置も外れている。トリガー引くだけで、この世とさようなら状態だった。


「……はい」


 義務教育のおかげで、イイコのお返事をして両手を挙げた。空を見て寝転がったままのオレは、突きつけられた2人の銃口に抵抗する手段がない。雨で濡れた地面からじわじわ沁みる冷たさを感じながら、諦めの溜め息を吐いた。

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