94.誰かが我慢は嫌だな(2)

「ところで、自由な立場を捨てるって……どういう意味?」


「二つ名持ちはある程度優遇されてる。正規兵になるなら、その権利を手放さなきゃならない」


 ノアの端的な説明に、オレは昨夜の会話を思い出す。ヒジリと会話してた時も、なにかを諦めるような言い方をしていた。


 この世界で生きていくにあたり、一目惚れした最愛のリアムはもちろん、シフェルやジャック達も側にいてほしいと思う。居心地のいい存在を集めて、美味しいものを食べて、色んな経験をしたい。その反面、オレの側にいるために彼らが何かを諦めたり、我慢するのは間違ってる気がした。


 互いに一緒にいる利がなければ、それぞれに暮らした方が楽だろ? ときどき顔を合わせる方が互いに嫌な思いをしなくて済む。家族だと思うからこそ、絶対に隣にいなきゃいけない理由はないはずだ。


「オレといるために、みんなが我慢するのは嫌だ」


 本音で呟けば、彼らは驚いた顔で目を見開いていた。


「おれらは邪魔か?」


「うーん、そうじゃないんだ。オレにとって家族だから、我慢させたくない。一緒にいることで不利益があるなら、離れてて時々顔を合わせる方がいいかもってこと」


 彼らが一緒にいたいと言ってくれたのは嬉しい。そのために権利を手放す覚悟をしてくれるくらい、大切にされてるのも理解した。だからこそ、我慢させたくない。


「権利を手放さない方法はないの?」


「傭兵のままなら問題ない」


 レイルが横から口を挟んだ。返答の速さに、この状況を読んでたのかと疑いたくなる。こういう問題が得意なのだろう。法律のグレーゾーンを突く詐欺師みたいな口調で、淡々と指摘した。


「傭兵ならば二つ名は有効だ。正規兵は命令に従う誓約をさせられるから、命令違反が出来なくなる」


 そこで意味深に言葉を切られれば、オレにもわかった。


「なんだ、傭兵として再契約なり契約更新すればいいじゃん」


 解決したとケラケラ笑い、よいしょと立ち上がった。すたすた歩きだすと、首をかしげながらガタイのいい傭兵連中がついてくる。子供の後ろを歩くゴツイおっさんという絵面は結構シュールだと思う。


「どうするんだ?」


 ノアの疑問に振り返り、満面の笑みで答えた。


「まず食事作るんだよ。契約更新は褒美で願い出てみるから後でね」

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