129.不用品は処分して(3)

 子? 人じゃなくて? まあ、ブラウの知識は偏ってるから仕方ない。少しでも共有できるだけ良しとしよう。


「やった!! じゃあ、シンの服が似てるって思わない?」


 じっくり上から下まで確認した青猫が首をかしげた。


『僕が知ってるのは女の子で、胸が零れ落ちそうなビキニ姿だったけど』


「オレの知ってる孔明じゃない」


 がくりと項垂れた。前世界の話が通じるくらいの利点しかないくせに、肝心な時に役立たずな猫め! ごろんと転がして腹を撫で、首を擽り、悶えさせてみる。腹いせにはこれが一番だ。


「キヨ、キヨヒト!」


 何度も呼ばれたらしく、オレは慌てて立ち上がった。苦笑いしたレイルがくしゃりと髪を撫でる。ちょ、今日はメイドさんが本気で整えたからやめてあげて! あとで叱られるのオレじゃん。


「聞いていなかったな。よ」


 王太子シンの言葉に、素直に頷いた。何やら提案した様子だが、レイルがいる理由も知りたいのでもう一度の説明をお願いします。あと「我が弟よ」って強調してくれてありがとう。お陰で半信半疑の貴族も納得顔だった。


「ごめんね、シン」


「セイ、余とシン殿、レイル殿を交えたお茶会を行うゆえ……こちらに参れ」


「うん?」


 オレ、リアム、シン……ここまで理解した。レイルって孤児で傭兵だよな? なんで皇帝陛下が、殿の敬称付けてるのさ。疑問を顔に盛大に表明しながら、いそいそと手招きに応じる。近づいた先で、リアムの白い手がオレの手を掴んだ。


「夜会まで時間があるゆえ、余に付きあえ」


 嬉しそうに宣言してオレを連れ出すリアムの頬が少し赤い。よく見れば耳も赤い、かも。どうやら先ほどのやり取りの興奮冷めやらぬ様子だ。微笑ましい気分でオレも頬を緩めながら手を繋いだ。王族の肩書があれば、リアムと公式の場で手を繋いでも咎められない。


 あのおっさんをやり込める前から、このための段取りをしてきたので喜びも大きかった。リアムの肩書は大きくて重い。それを担う婚約者となり夫に収まるには『英雄殿』では身分が足りないのだ。聖獣の主という称号が思ったより不安定だったのも影響していた。


 一緒に庭園に出る。ぞろぞろと数十人を引きつれたリアムは、慣れた様子で庭の奥へ入っていった。途中で薔薇のゲートを潜れば、いつもの踊る薔薇が生い茂る秘密の庭園だ。ここは話が漏れない利点があるけど、なぜか聖獣とオレに蔦が絡んでくる欠点があった。まあいいけどね、払いのけるから。

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