61.異世界人の知識は、非常識なほど便利でした(3)
最初の攻撃は、当然だが北の兵だった。的になるため丘の上に陣取ったオレ達は、彼らにとって最高の獲物だ。銀に近い金髪のガキが指揮官だと聞かされた兵は、貴族の坊ちゃんが旗印なのだと勢いよく攻め込んできた。
地上に描いた大きなV字の先端部分に当たる丘で、オレは取り出した椅子に腰掛ける。敵を挑発するためだ。こうして余裕を見せてバカにすれば、彼らは一直線にオレ目掛けて突撃するはずだった。周囲に目もくれずに……そして大事なことを見落とすのだ。
思惑通り彼らは周囲に散らばらず、真っ直ぐにオレ達を目指して走ってくる。上空で長身を揺らめかす赤龍がこちらに視線を寄越した。
「コウコ、そろそろいいぞ」
『わかったわ、主人』
赤い龍が大きな身をくねらせて、息を吸い込んだ。吐き出したのは炎だ。いわゆるドラゴンブレスに近い攻撃だった。火炎放射器のように敵を焼いていく。
「なんでオレにはブレスを使わなかったんだ?」
ぼそっと疑問を口にすると、コウコに届いたのか。彼女はもう一度大きな炎を見舞ってから振り返った。
『声を封じられていたからよ。あの紐が喉を封じたから、息に炎を乗せるブレスが使えなかったの』
どうやら声を出すときの振動を利用してブレスを作るらしい。そのため、喉を封じられるとブレスが使えなかったのだ。赤龍をオレに嗾けたいなら、もっと方法を吟味した方がよかったんじゃないか? 見えない敵に苦笑いする。
「そっか、上空は任せるぞ」
答えるように、コウコがもう一発ブレスを放つ。一気に敵の数が減っていく。取り出した地図を足元に置いて、減っていく敵の数と動きを確認した。
「作戦通りだな」
「そろそろ、おれらの出番か」
にやっと笑うジャックは、顔の傷があるため凶悪だ。殺人犯って感じの怖さがある。中身は面倒見がよく貧乏籤を引きまくる、優しいオトンなのだが。
「もう少しひきつけて一気に片をつける」
「わかった」
ノアも愛用の銃を構える。ライアンは丘に伏せて狙撃銃を2丁セットしていた。交互に使うのか、片方は予備なのか。姿の見える狙撃手は目立つ。2発目を装てんする時間もあり、あくまでも陰から隠れて敵を狙うのが彼らの手法だった。
しかし今回のライアンは平地にいる。彼を守る役が必要だった。
「ライアン、誰か頼んだ?」
「おれが残る。任せろ」
丘に半月刀を突き立てたサシャが親指を上げる。手榴弾らしきものをベルトに下げ、銃を手にしていた。遠距離も近距離も対応できる万全の体勢を整えたサシャへ、同じようにサムズアップで応えた。
「先にいくぞ」
一声かけたノアとジャックが動く。結界を示す足元の線を越えない位置で、銃を構えた手を突き出す。銃だけ結界を抜けた状態を確認し、彼らは銃撃を始めた。
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