180.権力のあるクズは最低(2)

「相変わらず甘いが……これがキヨだからな。わかってるよ」


 ジャックが手を振りながら了承してくれた。これでこの街の住人が暴走しても、傭兵達がある程度まとめてくれる。


 騎士や兵士が武器を放棄して投降し始めたため、あっという間に市民が駆け上がってくる。このまま突入されると、素っ裸にシーツ巻いた侍女やご令嬢が危険だった。飛び降りて女性の安全だけ確保する? でもその姿は誤解を招く気がした。


 まるでオレが女を奪うために飛び降りたと思われるのも癪だし、万が一リアムの耳に入ったら軽く3回は死ねると思う。


「ブラウ、女性の安全を確保。外へ逃してくれ」


『あいよ〜、お任せあれ』


 なんだろう、嫌な予感が?


『主殿、あやつに任せてはっ!』


 ヒジリの叫びに慌てたオレは、ひとまず止めた。


「ま、待て! ブラウ、待て!!」


『残念、僕は猫だから芸は出来ないんだよ〜。それと』


 そこで意味ありげに言葉を区切った青猫が、にやりと笑う。あれだ、お化け屋敷の化け猫系の、口が裂けてる感じの顔。


『もうやっちゃった』


 ヒジリが溜め息をついた。目の前を白いシーツが飛んでいく。ご令嬢だか侍女だか裸では判断つかない女性達は、確かに安全に外へ運ばれていた。


 ここに命令違反はない。そう、言うならオレの命令が悪かったのか? ブラウ以外ならこんな意地悪なことしないと思うけど……ああ、そうか。オレは命令の内容を間違えたんじゃない。頼む奴を間違えたんだ。


 がくりと肩を落としたオレの前を通り過ぎたシーツの端を掴んだ、すっぽんぽんの女性が通り過ぎ、彼女の後ろから別の女性も空を飛ぶ。怯える彼女達はシーツにしがみ付こうとするので、下から胸や足が丸見えだ。隠そうにも難しいだろうが、身体を丸めりゃいいのに。


 ちょっと自業自得だから、これがラノベで読んだ「ざまぁ」って展開か?


『僕、リアルざまぁしてみたかった』


「ああ、うん。わかるけど」


 オレが女性の扱いが非道な奴だと思われちゃうじゃね? もう少し優しい方法はなかったのか。せめてシーツに包んで運んでやれ。


 ブラウはニヤニヤしながら空中を歩き、女性達を巻いた風を操る。そのまま城外どころか塀の外へ出してしまった。下ろされた場所が街の外なので、あれは服の調達に苦労するだろう。


「お前さ、オレの命令を曲解するの……やめろよ」

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