180.権力のあるクズは最低(3)
溜め息をついた足元で、なぜか歓声と怒号が同時に沸き起こった。両手で顔を覆っていたオレがそっと覗くと、住民達は男女問わず歓声を上げて拳を突き上げる。怒鳴ったのは王子だった。目の前で女性達を拉致られたんだから、当然だけど。
こういうのって「キャトられる」で合ってる? 宇宙人にビームみたいな光で回収されるやつ、映画で観た。
『ついでにキャトってみた』
「だよね」
うん、知ってた。楽しそうなブラウが戻り、コウコはひらひらと空を舞う。大きな龍体は光を弾いて幻想的で美しかった。巨大化したスノーも、尻尾で余計な壁を壊している。建物や公共施設を壊さないのは、すでに住民が味方だからだ。マロンはいつの間にか、逃げる貴族を蹴り飛ばして確保していた。
馬鹿な子ほど可愛いっていうだろ? あれは嘘だ。今のオレはブラウを殴りたいからな。そりゃあもう、吹っ飛ぶくらい全力で。
足元では王子が住民に捕まって、2〜3発殴られていた。溜め息をついて見守る。
「ねえ、殺されそうになったら助けてやって」
『いやよ』
『お断りします』
コウコとスノーに断られるが、ここで新参者のマロンが株をあげた。器用に空中を駆けてきた馬は、ふんと鼻を鳴らした後で軽く請け負った。
『ご主人様、僕が助けてやりますよ』
「お、いいね。任せ……ごめん、その前に助け方を説明してくれる?」
ブラウで何度も失敗したため、オレもさすがに学んでいた。彼は悪びれた様子なく、当たり前のように教えてくれる。
『簡単です。あの男を空へ蹴飛ばせば、住民達も諦めますよ』
人の恋路を邪魔してないのに、馬に蹴られちゃうのか。それも嫌だが、死ぬよりマシだと思ってもらおう。
「出来るだけ加減して」
唸りながら許可を出したオレの耳に、下の住民の声が届いた。
「俺の妻に手を出しやがって! このクズ王子が!!」
「お前がうちの娘に手を出したのは知ってんだぞ!」
……聞こえちゃったからさ。ほら、彼らの心境もわかっちゃうし? 僕は何も見なかったことにしよう。大きく溜め息をついて、ヒジリに合図して背を向けた。
「30分くらい、休憩してくるから……殺されなきゃ放置していいよ」
先ほどと似た命令だが、かなり内容に幅を持たせた変更に、ブラウが空中で寝転がりながら尻尾を振った。
『さすが主、わかってるね。クズ王子にざまぁは定番だもん』
黒豹が駆け下りたのは、ノアが待つ地上だった。城壁の外なので、まだ住民が城に駆け込んでいくのが見える。どこかの奥さんがフライパン片手に走っていった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます