14.愛称は重要でした(3)
……繋いでいいんだよな?
そっと左手を乗せて繋ぎ、隣を歩く。シフェルをちらりと振り返れば、かなり驚いた顔でこちらを凝視していた。
いや、手を繋いだのはリアムが望んだからで……繋ぎたくないかと問われたら首を横に振るが、皇帝陛下のご意思だぞ。オレの身勝手な行動じゃないからな。
聞かれてもいないのに、心の中で言い訳を繰り広げてしまう。そのくらい凝視されていた。手を差し出したリアムではなく、オレを凝視するのはやめてくれ。
内心で冷や汗を拭いながら、左手を軽く揺すってみる。注意を引きたいオレの幼い行為に、リアムは笑みを浮かべて小首を傾げた。
「リアム、このあとオレはどうしたら」
まさかオレだけシフェルの説教になるのか? 嫌な予感を滲ませて尋ねるが、「セイは何も心配しなくてよい」とかわされてしまった。
つい数時間前にお茶をした庭まで戻れば、机もイスも片付けられている。芝の庭は綺麗に整えられ、血の跡も銃弾の痕跡もない。あの侍女はどうなったのだろう。やはり殺されてしまったのだろうか。
彼女が倒れていた場所を見ながら、その脇を通り過ぎて宮殿内に足を進めた。建物の中はやはり少し暗くて、石造りの建物は冷たい感じがする。
「陛下、キヨはお預かりしますので」
ああ……やはり説教か。項垂れるオレをよそに、皇帝と騎士の会話は続く。
「いや、セイは余とともに晩餐をとる」
「ですが、まだマナーも教えておりません」
「問題あるまい、どうせ余とセイしかおらぬ」
「……陛下、”セイ”とはキヨヒトのことですか?」
「余が呼ぶ専用の愛称だ」
子供のケンカか? 問いたくなるような低レベルの言い争い、ならぬ会話は皇帝リアムの予想外の発言で途絶えた。
「……かしこまりました」
了承したというより、根負けしたのだろう。シフェルは引きつった顔ながらも足を引いて一礼し、満足げなリアムに引っ張られるオレは宮殿の奥へ足を踏み入れた。
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