340.傭兵の戴冠式は恙無く(2)
各国を繋ぐ転移魔法陣も設置完了日が決まり、近々各国の王族が集まるセレモニーもある。皇族や王族は外部から見ているより忙しかった。イメージだと、食っちゃ寝できるニートな職業だと思ってたけど。
忙しいのは有名税ってやつか。お金に不自由しない分だけ、働けという意味だろう。リアを働かせてニートする気もないので、働くことに異議はない。夕食は豪華な晩餐会……が普通だが、今回は異例のバーベキュー大会だった。
ここにも南の国の裏事情がある。ジークムンドを含め、側近となる傭兵達のテーブルマナー教育が間に合わなかったのだ。中央は皇帝陛下リアと婚約者のオレ、北は皇太子のシン、西の国は王女様、東の国は獣人王が間に合わず急遽アーサー爺さんが代理で出席だった。
この面子でマナー知らずで食べるわけにいかず、苦肉の策としてバーベキューを提案した。異世界料理と銘打って、シチューも再現しているので許されるだろう。スノーもキベリを提供してくれたので、南の国の体面は保たれた。結構ギリギリだったけどな。正直、西の国以外にはバレてると思うけど。
「ボス……っ、じゃなかった。えっと、キヨヒト殿下?」
ジークムンドが勢いよく飛び込んできて、まず減点から入る。
「扉を開ける前にノック、誰何があったら名乗る。それから入室許可を得て入らないと。オレだって覚えたんだから、頑張れ。で、何?」
偉そうに言えるだけの練習をしたからな。頷いて指折り数えるジークムンドの教育係に、ユハが派遣されることになった。というのも、彼は騎士として最低限の訓練を受けている。その上にマナーを教えたら、傭兵の中で一番習得が早かった。
国王陛下直属の教育係になり、給与額が増えて生活が安定したので、ルリ嬢と結婚するらしい。またお呼ばれすることになるけど、リアは……うん、お忍びで来ちゃおうか。
「バーベキューの準備を手伝ってくれ。あと、シチューが焦げた」
「あちゃー、焦がしたのか。かき混ぜてないよな?」
「わからん」
かき混ぜてなければ、上だけ掬えば量は減るが食える。混ぜてたら、もう色からして違うから無理だ。匂いも混じっちゃうし。
話しながら廊下を大股で移動する。こうしてると他国の王様とか、冗談みたいだ。戦場でやり取りしながら歩いてる気分だった。辿り着いた厨房で、鍋を覗いて項垂れる。綺麗に底まで削いでやがった。
黒い欠片が浮いたシチューは手のつけようがない。
「材料は?」
「こっちにまだ」
戦場で料理番を買って出ていた熊属性の青年が野菜を示す。
「ブラウ、野菜のカット。スノー、乳の確保を頼む。それからヒジリ」
『肉ならばここにあるぞ』
影から兎肉を取り出した。気が利きすぎて怖いと思ったら、彼の夜食用らしい。悪いな、提供してもらって。しっかり労って褒めてから受け取った。
「時間がないから蒸して煮込む。シチューを混ぜる係に、マロンを指名する。頼めるか?」
『僕できます、ご主人様』
今回の主役だが仕方ない。マロンはリアにもらった小さなエプロンをして、ご機嫌で杓文字を操る。オレが戦場で何回も手伝わせたせいで、手慣れていた。聖獣って神の一部なのに、すっかり上手になって。
カットした野菜と肉を結界に放り込んで、中を一気に蒸気で満たす。ごろごろと回転させ、満遍なく火を通した。その球体を後ろに連れたまま、バーベキューの準備を手伝う。串に突き刺すのは、傭兵達も慣れたものだった。
「よし、マロンは離れて。シチューの完成だ」
味の染み込み具合は、圧力鍋のイメージでこれから調整する。蒸した野菜と肉を入れた鍋を結界で包み、ぐっと圧をかけた。爆発しようとする内側からの力を無理やり抑え込み、待つこと10分。シチューの量が減ったところで圧を抜いたら、噴き出した。噴水みたいな白い液体をまとめて鍋に戻し、額の汗を拭く。
危なかった。全員大やけどするところだったじゃん。
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