42.卑怯な作戦ほど効果的(2)

「おう、ご苦労さん。どうだった?」


『うむ、我の姿に驚いておった』


「まあ、肉食獣がいきなり襲ってくれば驚くだろうさ」


 小声でやり取りしながら、追い立てられた獲物を狩り続ける。後ろに回りこんだ傭兵達の気配が近づいてきた。倒した数を確認しておきたい。


「ノア、あとどのくらい?」


「32まで数えた」


 この場に残った傭兵の中で、100まで数を数えられるのはノアだけだ。ジャックやライアンは10単位だし、ヴィリにいたっては数える気がない。サシャは数の概念を無視する。几帳面なノアの答えに、うーんと唸った。


 残った魔力の動きを考えると、5人ばかり行方不明だ。どこか他所へ逃げたならいいが、回り込まれたりすると厄介だった。


「ヒジリ、5人ほど離脱してるけど……居場所分かるか?」


『我らの後ろに向かっている者が6人だ』


 やっぱり。嫌な予感ほど当たる。そしてサバゲーの経験は十分役に立つと気付かされた。実戦経験がないことがオレの弱点だと思っていたが、サバゲーで使った作戦や経験がそのまま流用できる。この世界の戦術や作戦は、素人のオレが考え付く程度のレベルだった。


 ずっと戦争をしているくせに、発展していないのは驚きだが助かる。


「ノア、オレとヒジリで後ろに回りこむ6人を片付けるから」


「待て、キヨ!?」


 叫んだせいで注目を浴びたノアに銃撃が集中する。反撃が一段落したノアが振り返ったとき、すでにオレは移動を終えていた。


 木の枝の上を走るオレの魔力感知が敵を拾う。隣を追いかけていたヒジリも足を止め、鼻をひくひく動かした。臭いを嗅ぐ仕草に似ているが、魔力感知をしているのだろう。


「このあたりだ」


「挟み撃ちにしてやる」


 憎しみを込めた彼らの呟きに、苦笑いしてナイフを取り出す。魔力感知が出来ない彼らは魔力の変化に気付けない。収納魔法から取り出したナイフは、さっき味方に貸したものだった。彼が血を拭った刃は、不吉な輝きをみせる。


 ヒジリと視線を合わせて飛び降りた。先頭を歩く男の後ろにおりたオレは、そのまま地を蹴った。2人目の男の首を掻き切り、血で滑る柄を握りなおす。そのまま前進して3人目の胸に突き刺した。すぐ脇で銃の撃鉄があがる音がして、ナイフを離して飛び退る……はずが、3人目に腕を掴まれてしまった。


 先頭の男の首を食いちぎったヒジリが叫ぶ。


『主殿っ!』


 転がるように足元で体勢を崩したオレに向けられた銃口が火を噴く。込められた憎しみ色の魔力が見える気がした。

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