16.食事をしたらお勉強(4)
異世界人であるキヨヒトは知らないが、この世界には短期間で教養や学問を叩き込む方法が伝わる。魔法の一種ではあるが、普段は『術』と呼んで区別されていた。
特殊な読み聞かせ法により、対象者の脳を揺さぶって記憶の奥へ直接知識を詰める。表層意識の記憶ではないため、基本的にこの術で覚えた知識は焼付けとなり、消える心配がなかった。便利な方法で、一度に大量の知識を覚えさせたり、覚える時間を短縮できて利便性が高い。
しかし、この世界で術が多用されることはなかった。
便利なものは、必ず代償を必要とするからだ。その代償が『勉強時間の記憶の欠け』や『背中の痛み』だった。正確には代償として奪われるのではなく、無理やり脳を操作した影響が身体に現れただけだ。
影響は対象者により異なるため、同じ知識を覚えた場合に同じ症状が出るとは限らなかった。筋肉痛のように足を使えば足に出るというルールがない。
「あ、みかん食べたい」
大きめのみかんらしき果物に手を伸ばすが、サシャに「動くな」と引き戻された。呆れ顔のノアがみかんを手に取り、皮を剥いてくれる。面倒見のよさはピカイチのオカンだ。
「ほら」
差し出されたみかんを口に放り込む。柑橘系のすっぱい味を期待してたオレだが、驚くほど甘かった。砂糖を詰め込んだ? と聞きたくなるほど、ひたすら甘い。
「あっまぃ」
なぜ『みかん』と翻訳した……酸味が欠片もない。
こんなに甘いのに外見だけで『みかん』と自動翻訳した能力に悪態をつきながら、水分が多い果実を再び口に放り込んだ。甘いが、喉の渇きは癒せる。
「よし、これでほとんど塞がった」
サシャが額に浮いた汗を拭きながら、オレの手からみかんをひと房奪って口に放り込む。疲れたとぼやきながら、オレの顔を覗き込んだ。
「ん?」
「……怒ってないってことは」
眉を顰めたサシャへ、ノアが大きく溜め息を吐いた。
「記憶が混乱しているらしい」
首を傾げるオレの前に手鏡が用意される。俯せの背中側でノアが大きな鏡を構えた。
「見てみろ」
手鏡の角度を変えると、傷だらけの背中が写った。誰の背中だ? こんな酷い傷……って、間違いなくオレだよな? オレの背中、酷いことになってるじゃん!!
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