16.食事をしたらお勉強(5)

「え!?」


 掠れた声で尋ねるより早く、すごい勢いで扉が開いた。上半身裸で転がるオレとしては、寒いから早く閉めてほしいのだが……青ざめたライアンがそのまま室内に飛び込んでくる。


「……勉強の筈だろう! なんでこんなっ」


 青ざめていた顔が赤くなっていく。どうやら怒りが突き抜けたらしい。当事者を置き去りに盛り上がる周囲を見回し、オレは溜め息を吐いた。


「あの……説明してくれる?」


 置き去りです――誰か拾ってください。異世界人である不便さが身に沁みた。何しろ彼らは常識で話をする。でもオレにとっては未知の話のわけで、ちゃんと説明されないと状況が理解できない。知らない国で苦労する外国人の気持ちですよ。


「とりあえずこれだ」


 再び空中から取り出される本は、見覚えがある外装だった。あれだ、最初に見た『異世界人の心得』だっけ? 古書といった風情で読み古された本は、少し外装が切れている。


「よ、めない」


 俯せのオレに本を差し出されても、手を伸ばして受け取るのも無理だ。せめて手が届くところまで、おろしてもらえると有難い。そんなオレの呟きに、まだ眉を寄せたままのノアが本をぱらぱらと捲り、目的の文章を見つけて差し出してくれた。


 うつ伏せた姿勢でソファに転がり、文面に目を通す。


『異世界人に不足した知識や常識を教える方法として、術の利用を提案される可能性がある。この術は足元に展開した魔法陣により、無理やり頭の中に知識を詰め込む。記憶と違い知識が薄れる心配がないというメリットがある反面、詰め込む量を間違えると身体に支障が出る』


「読んだか?」


「うん」


 わかった。そういえば、勉強に使った机の足元に綺麗な模様のマットが敷いてあったな。あれが魔法陣だった可能性があるのか。そしてオレの了承なしに勝手に術を行使して、背中の傷に繋がった……と。


 頭の中を整理するが、考えたそばから思考が溶けていく。ぼんやり見回すオレの様子がおかしいと気付いたノアが手を伸ばし、額の熱に気付いた。こういう所作がすぐできるあたり、本当にオカンだ。


「熱がある」


「これだけの傷では、しょうがない」


 サシャが首を横に振る。このメンバーの中で医学的な知識が豊富なのは、サシャらしい。さきほどの治癒魔法みたいな能力からしても、間違いなさそうだった。


「冷やすか」


 ジャックが合図するより早く、入り口に立ち尽くしていたライアンが飛び出した。氷とか欲しいです、切実に。言葉にならない願いを念みたく送ったが、届いただろうか。

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