16.食事をしたらお勉強(6)

 とりとめもない考えが浮かんではほどける。繰り返す考えと四散が眩暈を増長した。あ、林檎だ。見つけた果物に視線を送ると、気付いたノアが手を伸ばす。


「食べるか?」


 ノアが林檎によく似た果物を手に取り、簡単そうに半分に割った。ほら、よく映画で見るやつ! 手の握力?だけで、ぱかっと林檎を割る技。コツがあって、できる奴は簡単そうにやるんだよな。


 憧れたなぁ、あれ。ちなみにオレは出来なかった。実はスキップも出来なかったりする。別に不自由じゃないし、出来ないと生活に困るわけじゃないけどさ。出来ると格好いいじゃん。あ、片手でペンをくるくる回すのは出来たぞ。


「無理やり詰め込むなんて、コイツはまだ子供だぞ」


 24歳でも外見から子供扱いされるのは、いい加減慣れた。同じ竜だからか、シフェルは外見に騙されてくれないが、さすがにやりすぎ感はある。


 憤るライアンへ熱で潤んだ目を向けると、感極まったように髪をくしゃくしゃ撫でられた。乱暴だが、彼らしくて嫌いじゃない。この世界来てから、やたら撫でられてるよな。前世界で撫でられた回数を総動員しても、今の方が撫でられてる気がする。


 痛みが和らぐと眠くなる。発熱した所為もあるんだろうが、とにかく眠かった。寝てもいいのかな? 寝たら死ぬ冬山とは違う筈……。


 怒りに任せたジャックの声が耳に届いた。


「なんでここまでするんだ! 殺す気か!!」


「……オレ、シフェルに…嫌われ、てるのかな」


 うとうとしかけたオレは、飛び込んだ言葉につい無意識で返していた。ほぼ自覚のない呟きに、なんだか悲しくなる。そのまま眠ってしまったオレは知らない。目の端に光る涙に気付いたジャックたちが、ある作戦を立てて決行した事実を――。







 午後から歴史を習う予定だったが、顔を見せたリアムは首を横に振って「取りめだ」と苦笑いした。シフェルから報告を受けていた可能性もある。


「今日は休むといい」


 人前だからか、謁見時のように硬い口調を崩さないリアムに頷く。ぼんやりしたままソファに俯せで転がるオレの頭を、ひんやりした手が撫でた。


「あ、気持ちいい」


 呟くと手が止まり、額の上に置かれた。花に似た良い香りがする。香水、だろうか? 目を閉じるとさらに香りが強くなった気がした。

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