77.オレの冷奴様に謝れ!!(3)

「泣くほど悔しいなら、絞って固めたら同じに……ならねえか」


 苦笑いしながら呟いたレイルの手をがしっと掴み、潤んだ目で見上げる。そうだ、その手があった。おぼろ豆腐とか、そういう感じなら食べられるかもしれない!


 まだ希望は残されていた。


「絞ってみる」


 突然男の手を握って目を輝かせたオレの姿に、ジークムンドが顔をしかめながら忠告した。


「男がダメだとは言わねえが、やめとけ」


「最初から対象外だよ」


 しっかり言い返して、鍋一杯に潰されたお豆腐様の成れの果てを見つめる。ぎゅっと絞って甘い汁を絞った残りは、きっと豆腐のはず!


 魔法はイメージ勝負だ! 大きな布をイメージした半透明の白っぽいシートを作る。その上で鍋をひっくり返し……甘い汁は近くの鍋に放り込んだ。半透明のシートを絞って開くと!


「……オカラだ」


 なんだろう、力加減を誤ったのか? ぱっさぱさのオカラが大量に出来た。汁をかけてもオカラは豆腐になれない。前世界の知識を総動員しても、豆腐に戻れないだろう。


「失敗、した……オレの冷奴様がぁ」


 再び膝をついて失敗を悔やむオレをよそに、傭兵達は手慣れた様子で料理を続けていた。ここ数回のオレの料理をそっくり真似て、無難に醤油味の鍋ものを作る。食材の横に置いたパンを浸み込ませて食べる連中がようやくオレに目を向けた。


「ボス、そんなにしょげるなよ」


「まだ鍋も残ってるからさ」


 慰められながら椅子に座らされ、目の前に温かい鍋料理が置かれた。硬い黒パンだがスープに浸して食べれば、それなりにうまい。


 嘆きすぎて赤い目元が痛いが、鼻をすすりながら具材を噛みしめ、ほんのり甘い味に豆腐を思い起こしてまた涙する。食べ終えたオレが振り返った先に、絞ったオカラが大量に鎮座していた。


「うっ……冷奴じゃ、ない」


「ボス、これ加工したら食えるか?」


「家畜の餌みたいだぞ、無理だろ」


 決めつける傭兵連中の声を背に受けて、オカラの前に移動した。オレが知ってるオカラ料理は、出汁で煮たおばあちゃんの手料理くらいだ。作れなくはないだろうが、出汁がない。


 オカラの処理という現実逃避にすがるオレは、近くに残っていた鶏肉を手に取った。どうやら焼き鳥しようしたが、オレが嘆いていて砂糖を出さなかったので、照り焼きは無理だったらしい。塩焼きにして多少は食べたが、まだ残されていた。


 ネギを足して風味を出せば、なんとか……ナツメグはないが、シナモンはお茶の時に使ったから多分ある。スティックだが、要は粉砕すればいいわけで。八つ当たりの対象として最適だった。


 そうだ、全部砕いたらすっきりするかもしれない! この悔しさをバネにせず、叩きつけてやる!! ぐっと拳を握ったオレが出した結論はひとつ。


「ハンバーグ、かな」


 本当にチート料理ラノベになってきた。リアムのとこに戻ったら、ぜったいに冷奴を食べよう。固い決意をしながら、オレはオカラの加工に取り掛かった。

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