77.オレの冷奴様に謝れ!!(2)

 この豆腐に似た何かが問題なのだ。豆腐にすごく似ているし、匂いも同じっぽい。しかし味が……とにかく甘い。杏仁豆腐かと思ったら、それも違うらしい。デザートに使うのだと考えていたが、リアムとの食事では砂糖代わりにスープに使われていた。


「ノア、これって……」


「ん? 豆腐か。煮物にしたらどうだ」


 やっぱりスープや煮物に使うんだ。ならば砂糖を控えて、味付けすればいいか。煮ると甘いのが外にでて、ただの豆腐に戻るんだよな~。あれ? もしかして煮てから冷やせば、冷奴ひややっこが食べられるんじゃないか? 


 ごそごそと調味料が入った箱を収納口から取り出す。醤油が発見されたんだから、冷奴食いてぇ。せめてオレの分だけでも!


「野菜と肉は切るぞ」


 包丁片手に作業が始まっていた。豆腐を一部自分用に取り分けて、残してくれるように言いつける。怪訝そうな顔をされたが「好物だ」と言えば、料理人たちは頷いた。


「キヨ、ベッド!!」


「今行く!」


 ヒジリにかまどを作るようお願いして、鍋を足元に置く。そのままこの場を離れて、テントへ向かったオレの行動は間違っていなかった。少なくとも、この時点までは……。







 大量のベッドを引き出して「非常識な収納力」と揶揄されながら戻った調理場テントで、オレは膝から崩れ落ちた。出しておいた豆腐がすべて煮てある。いや、煮るのはいい。どうせ煮て甘みを抜く予定だったから、そこは構わないんだが。


 なぜ潰したぁああああ!!!


 鍋の中にあった甘い豆腐もどきが、すべてすり潰されていた。確かに残してあるし、誰も食べてない。オレの分だけ別の鍋に入れてくれてあるさ。いっそ触るなと命令していけばよかったのか? リストを見るまでもなく、持ちこんだ最後の豆腐もどきなのに……。


「……どうした? キヨ」


 戻ってくるなり膝をついて苦悩しているオレの様子に、ノアが調理場を代表して声をかける。ぽんと叩く手を払い、唸るように声を絞りだした。


「どうして……なぜ潰した?」


 危険を察知したヒジリは影から覗いていた顔を引っ込め、腕から逃げたコウコも影に飛び込んだ。ブラウはそっと様子を見て「あちゃー」と顔をしかめて、見ないフリ。


 いや、聖獣の反応なんてどうでもいい。


「潰した……豆腐か? 潰さないと食べられないだろう」


 これが中央の国の常識らしいが、オレは常識なしだからな! どうせ常識ないからな!! 二度言うくらい傷ついてるんだぞ。どん、と地面を叩いて立ち上がった。


「オレは豆腐を残すように言ったのに」


「好物だというから、準備しておいたが」


 ノアはまだオレの怒りの理由と方向に気づいていない。しかし欠伸しながら様子を窺っていたレイルは、ピンときたようだ。


「つまり、触るなって意味だったのか?」


 こくんと頷いたオレの目がじわりと涙で滲む。前世界で好きだった冷奴を食べられると思ったのに。醤油があって、甘みを除けばそっくりの豆腐があって、玉ねぎ形のネギを切れば薬味もあった。完璧な冷奴が食べられるハズだった。


 くそ、オレの期待を返せ! そして冷奴様になれるハズだった豆腐に謝れ!!

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