51.不吉な赤いピアス(3)

 ざわつく傭兵達が信じられないとオレを見つめた。どうもレイルは『仕事を選ぶ、気難しい凄腕情報屋』と認識されているらしい。オレにとって彼は、気のいいお兄さんって感じだ。部活でよく面倒見てくれる先輩が近いな。もちろんタダで面倒見てくれないが、オレにとって悪い印象はなかった。


 本当に危ないときは、値段交渉する前に助けてくれた。最初の戦場で銃を借りたときもそう、オレが黒い沼に嵌ったときだって、何だかんだ言いつつ全力で協力してくれたんだから。


「あの悪魔がね……仲がいい傭兵仲間相手でも3回に1回しか仕事請けないんだぞ。おまえは運がいい」


 ジャックが乱暴に頭を撫でる。どちらかというと揺すられた形で、首や背中が痛い。ぐらぐらする視界もいい加減慣れてきてしまった。


「運は悪い方じゃない? それにレイルはちゃんと話したら、子供相手でも聞いてくれるぞ。依頼も2回目だ……し……っ?」


 2回目の単語の直後、ほぼ全員がこちらを凝視した。50人近いガタイのいいイカツイ男達に見つめられ、かなり居心地が悪い。何か変な発言しただろうか。


 もじもじしながら見回すと、一番最初に声を発したのはジークムンドだった。


「さすがはボスだ! あの赤い悪魔を手懐けるなんざ、並の男には無理だ」


 がっはっはと大声で笑い飛ばすと、周囲にざわめきが戻った。


「なんでレイルは『赤い悪魔』って呼ばれるんだ?」


 肩を叩くジークムンドに尋ねると、彼は少し言葉を濁しながら教えてくれた。本当に怖い顔に似合わず、面倒見がいいアニキだ。


「奴は北の出身でな。あの国が衰退したのは、奴の仕業だってもっぱらの噂だ。孤児を集めて成り上がった、まあ……努力家なんだが。あいつは裏切りを許さねえ。その苛烈なまでのやり方が悪魔と呼ばれる所以だ」


「赤は返り血の色とも、あの見事な赤毛だとも言われるが、おれは返り血の方だと思うぞ。何しろ前の組織は皆殺しにしちまったんだろ」


 物騒な話の後半を別の傭兵が引き継いだ。


 皆殺しとか返り血とか、かなり誇張された話だと思う。オレだって、レイルがただのお兄さんだなんて幻想は持たないし、彼にナイフ戦の指導を受けた時の強さは身に沁みて理解していた。とんでもない強さだ。普通にこの傭兵集団に入っても上位の力量だろう。


 情報にこだわる理由は知らないが、その扱いに関して妥協したことがない。そういった面で彼は信用できる男だった。


「だから近づくな」


「危険だぞ」


 口々に忠告してくれる面々に、オレはこてりと首を横に倒した。まったく話が繋がらない。戦場を出歩く時点で危険は先刻承知だ。虎穴に入らずんば虎子を得ずじゃないけど、危険は彼らを避ける理由にならなかった。

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