51.不吉な赤いピアス(2)

「……気をつけろよ」


「気に入られすぎだな」


 ジャックやサシャが忠告めいた言葉を口にする。変なフラグ立てるなよ、怖いだろ。レイルはそんなに悪い奴じゃない気がするぞ。


 世間話をしている間に、傭兵達は武器の点検を済ませて装備を終えていた。命令を待つ大柄な男達に囲まれるオレは、明らかに場違いな子供だ。


「ボス、今回も囮か?」


「囮はなし! 北の国はすでに戦線を展開しているから、全面対決だ。オレに考えがあるから説明するぞ」


 地図を広げて作戦を説明していく。敵が陣地を引いた場所を地図の中央に表示させた。地図の左側に川が流れ、右側は崖になっている。左右から攻め込まれる可能性が低い、天然の要塞ってやつか。


「ここに前線がある。正面は1班が担当で全面的にドンパチしちゃってくれ。2班は少数精鋭で回り込むぞ、こっちからね……ちなみにオレは2班に入る」


 回りこむ方角が崖だったため、誰もが顔をしかめた。危険すぎる方法を提案するオレに視線が集中する。


「ここから奇襲する必要性がわからない」


 ジークムンドの指摘はもっともだ。全面対決しても勝てるだけの戦力を用意したのに、どうして右側の危険な崖を回りこむのか。彼らの疑問は当然だった。


 地図の右を指差していた手で、左の川を示しなおす。


「ここに川がある。天気図を見てて気付いたんだけど、昨日は大雨が降ったんだ。そしたら何が起きる? 左から水が押し寄せるだろ。地面と川の高低差がゼロで堤防がない戦場、ひたひたと水が溢れたら……塹壕に流れるはずだ」


 大雨の当日より、翌日の方が川の水量は増える。前世界で観たテレビの映像が脳裏を過ぎった。


「なるほど」


「焦った連中が逃げるのは川と逆方向だ。オレがいる右側へ逃げてきたところを迎撃する」


「後ろへ逃げられたら?」


 ライアンが口を挟んだ。とってもいい疑問だから、頷いて答える。


「それなら簡単さ。そのまま1班が追い詰めればいい」


「川の水は本当に溢れるのか?」


 作戦の基礎部分への疑問を提示したノアが、オレの肩に触れる。その手をぽんと叩いて安心させるように笑った。


「溢れるさ。そのために金払ったもん」


「金払った?」


 奇妙な言い方に、ジャックは強面の顔をしかめた。どうみても犯罪者臭しかない集団だが、オレにとっては信頼できる仲間だ。ぎりぎりまで黙っていたが、ここまで来たら教えても問題ない。


「オレの赤いピアス、レイルに貰ったって言ったじゃん」


「ああ」


「出掛ける直前に会ったんだけど、そのときに依頼しちゃった」


 ぺろっと舌を出して打ち明けると、呆然とした顔のジャックが繰り返した。


「依頼しちゃった?」

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