第12章 北の国から

51.不吉な赤いピアス(1)

 西の国制圧の報せは、あっという間に他国に広がった。正確には情報操作に長けた『赤い悪魔レイル』が知らせて回らせたのだ。


 配下の働きに満足げなレイルが、こっそり夜中に稼いだ金を数えていたとか、いないとか。笑える噂を楽しみながら、オレは再び戦場にいた。


「北の国って寒いかと思った」


 防寒着を用意したときに、シフェルが変な顔してた理由がわかった。オレにとって、北国は寒く南国は暖かいという常識は、この世界に当てはまらない。見事なくらい関係なかった。


 思い返してみれば、地図の国境できっちり天気が変わる世界だ。今回西の国を統合して描き直したばかりの最新地図を貰ったが、西の国との境目が消えていた。きっと天気も変わったに違いない。もう深く原理を考えるより、そういうものだと納得した方がいい。


 西の自治領は、北の国を落としてから帰りに攻め込むと聞かされた。理由は聞かなかったが、顔を見合わせて笑うシフェルとリアムの怖さといったら……オレが入り込む余地はない。


「キヨ、これを預ってくれ」


「はいよ」


「こっちも頼む」


「いいよ」


 次々と渡される武器を収納していく。考えてみるとおかしな習慣だ。信頼の証として武器を預けるのは構わないが、オレに収納魔法が使えなかったら大惨事じゃないか? 大量の武器に押しつぶされる未来しか見えない。


 それに愛用の武器を預けてしまったら、いざという時に身を守る武器が足りないじゃん。疑問をジャックにぶつけたら、「愛用品だから預ける価値があるんだ」と言い切られた。意味がわからない。


 深く考えずに武器を次々と預り続けたため、正直、今の収納空間の中身が把握できなくなっていた。戦争が一段落したら、片付けを兼ねて2度目の『からにな~れ』をやるか。


「キヨ、そのピアス…色が違うな。赤か」


 リアムから貰ったピアスかと思ったら、違った。彼女から貰ったピアスは青灰色だったので青や紫のピアスに溶け込んでいる。渡すために外した紫のピアス穴に新しく嵌めた赤が目立つのだろう。


 赤い色で思い浮かべた人物に、ノアが顔をしかめる。


「もしかして」


「もしかしなくても、レイルに貰った」


 けろりと白状した。隠しておけと言われなかったから問題ないはずだ。空のピアス穴に気付いたレイルが、出かけ間際に自分のピアスをひとつくれた。見送りにきてくれたリアムが、すっごい驚いていた。逆の立場だったらオレも驚く。


 レイルのケチは有名らしいから。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る