87.異世界定番のドラゴン来襲!(3)

 ひとまず捕虜を助けるべく、彼らを繋ぐ鎖を銃で撃つ。ここでチートな能力の補正が働いて、銃弾が鎖を切る! と思うだろ? 鎖が切れて捕虜が落ちるのを、下にいる傭兵が救助する……予定だった。


「こら、キヨ!」


「あぶねえだろ」


「気を付けろ、同士討ちする気か!?」


 こういう感じで怒られるわけだ。銃弾は鎖の隣をすり抜けて、反対側で怪獣の足を突いてた味方の足元の土を舞い上げて終わった。ライアン、ジャック、サシャの順できっちり文句言われたので「ごめん」と謝っておく。


 カミサマ、そこはチート補正があってもよくね? 入れ忘れましたかね? 真顔で空を仰ぐくらいには、イラッとした。ドラゴンってもう少しレベルアップしてから登場する悪役じゃないか! 登場が早すぎたよね、たぶん。


 予定は未定、という過去聞いた言葉が過るが振り払った。鎖を切るのにナイフは無理だし、近くで直接撃ち抜くしか思いつかない。


「ヒジリ、鎖に近づけるか?」


『可能だが……奴の爪から振り落とす方が確実だ』


「さすがヒジリ! あったまいい」


 黒豹でも照れるとわかりやすい行動をとる。頬が赤くなっても見えないからわからないが、金瞳を逸らして意味もなく毛繕いを始めた。いや……ここ空中だからね。しかも戦闘中。


「コウコ、囮が出来る?」


『いいわよ』


 長い胴体をくねらせ空中で揺すったコウコが、立派な尻尾でドラゴンの後頭部を叩いた。


「ぐぎゃあああっ!」


 怒ったドラゴンが振り向いて、噛みつこうとする。するりと身を捩って避けたコウコが、挑発するように尻尾の先をドラゴンの前で振った。小刻みな動きがドラゴンを誘うらしい。ドラゴンの意識が完全にコウコへ向いた。


「いまだ!」


 ブラウの風の刃が鎖を引っ掛けた爪の先に当たる。さすがに切れなかったが、相当な衝撃だったらしい。ドラゴンが手を振ったため、鎖が外れて落ちた。


「うわぁ……!」


「しぬ~」


 叫ぶ捕虜の皆さんには悪いが、そこは完璧なオレの聖獣様がいらっしゃるわけで。命じるまでもなく、ヒジリが土でなだらかな斜面を作った。そこを彼らは滑り降りていく。


「……あれ? オレのイメージだと駆け下りて逃げる感じだったのに」


 なぜ滑り台になった。無事に逃げられたんならいいけどさ。ほっそい目になって状況確認している背後に、街から飛び出した兵士や衛兵らしき連中が駆けてきた。かなり大人数だから、捕虜の皆さんの保護は任せられそうだ。


 ブラウはいくつも風の刃を量産して、ドラゴンの体力を削っていく。氷を吐くドラゴンと相性が悪いはずのコウコも、魔法が無理なら物理と割り切って尻尾で応戦していた。


「ヒジリ、頼む」


 足元で戦う傭兵連中は、ナイフから剣に持ち替えた数人が先頭に立っていた。鱗が硬かったので、銃弾が通らないのかもしれない。苦戦が予想された。

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