87.異世界定番のドラゴン来襲!(2)

 右手を上げると首に絡むコウコが腕に移動する。赤い蛇の金瞳を覗きながら、白銀のドラゴンを指さした。


「あいつを止める。手を貸してくれ」


『主人のご命令ね。お手伝いするけれど、わらわの火は効果がないわよ』


『ふふん、ここは僕の出番だな』


 偉そうにブラウがふんぞり返る。みれば、踏んづけた門番の上で仁王立ちする猫……しかも巨猫。足首まで門番の腹に埋もれてるが、下の奴らはぴくりともしない。アニメのような光景に、ふふっと笑いが漏れた。なんだか勝てそうな気がする。


 たとえ蟻が人に挑むくらいの実力差があっても、他人を見捨てた罪悪感に苛まれて後悔するなんて、チート授かった今のオレらしくないよな。過去の引きこもりに戻る気がないなら、ここは踏ん張りどころだった。


「よし、いけ! ブラウ、薙ぎ払え!!」


『主、僕は『きょしんへー』じゃない』


「うん、正解だ」


 互いにしか通じない会話をしながら、サムズアップする。青い巨猫は勢いよく空中を走り出した。


 火のコウコと相性が悪くて、風のブラウが最適なら……相手は水を使うのか。前に勉強した特性を思い出しながら、ブラウの後を追うヒジリの背で銃を抜いた。弾を装填して安全装置を外した銃の照準を合わせる。空中はどうしても狙いがズレやすい。


 ぶらさがった捕虜兵達がじたばた暴れる姿を、ドラゴンは興味深そうにのぞき込んだ。もう怪獣映画そのものだ。


 威嚇も兼ねて数発放った。鱗に弾かれるが、ドラゴンの興味を引くことに成功する。数十歩でたどり着いたドラゴンの足元で、ヒジリがぴょんと左側に飛びのいた。次の瞬間、さっきまでいた場所が真っ白に凍り付く。


 龍に戻ったコウコが、凍った大地に炎のブレスを放った。だが彼女自身が語ったとおり、相性が悪いようだ。氷が完全に溶けずに地表を覆っていた。


「くそっ! ジャック、全員戦闘開始!!」


 叫んだオレの後ろで、「「おう」」と複数の返事があった。振り返る余裕はないので、ひらりと手を振っておく。城門側も慌ただしく動き出す気配がした。どうやら差別だの区別だの言ってる場合じゃないと判断したようだ。


「ジーク! 捕虜の鎖を切るから保護たのむ」


「任せろ」


 強面がにやりと笑って請け負った。これで安心だ。跨ったヒジリの首筋を撫でて声をかける。


「悪いけど、足替わりをしてくれ。ドラゴンの爪を斬りおとしたい」


『主殿、あの爪は硬くて無理だろう。青猫でも難しい』


 風を操る青猫の刃でも斬りおとせないと言われ、舌打ちする。考えろ、他の方法を思いつかなければ全滅しかねない。

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