200.まさかの増援あり(3)

 煙草の煙をオレに吹きかけない気遣いを見せるレイルが、一瞬顔を顰める。背中を気にする素振りはすぐに消えた。首をかしげ、迷ったが問うことにする。こそこそ探るのは気が引けた。


「背中、何かあるんだろ? 教えてよ」


「……何の話だ」


「言わないなら、シンに聞くけど」


 オレが「お兄ちゃん、教えて」と言ったら、国家機密まで口にしそうな義兄の存在を匂わせる。


「くそっ、目敏いな」


 僅かな仕草だけど、気づいちゃったんだから聞きたくなる。何か嫌な記憶に繋がってると察したけど、そこは気づかないフリさせて欲しかった。子供は素直で残酷な生き物だからね。


 オレがこの世界に来て、最初に銃をくれた。生きる方法を与えてくれて、暴走した時も探して走り回り、怖いのに前に立ちはだかる――金目的じゃ、そこまでしてくれないのは、世間知らずのオレだって理解する。


 孤児を拾うお人好しだから、冷たいフリして懐に入れた子猫に優しい男なんだ。ずっと子猫でもいいけど、出来たらレイルが困ったときに力になれる従兄弟でいたい。生意気にもそう考えていた。だって出世払いだと言いながら、支払いを催促しないんだぜ?


 情報屋で食ってるくせに、こんなに無料奉仕するお人好しだった。知らなかったと後悔するのは、絶対に嫌だ。


「誰にも言うなよ。ガキの頃の古傷の痛み止めだ」


 ウィンクして茶化した口調を作るが、その言葉に嘘はない。そう感じた。ただ深刻に事態を捉えていないのもわかるし、オレに同情させてくれる気なんてなさそうだ。


 ガキの頃……つまり北の国を追放された前後の話だと思う。王弟の息子として、罪人扱いされたときに傷を負ったのか。古傷が今でも痛いのは、心理的な影響が大きい。つまり触れちゃいけない傷跡って意味だった。


「ふーん、レイルはなんだ?」


「このっ! 言いやがったな、まだ従兄弟のだぞ」


「ギブっ、うわああ」


 首を絞める仕草で転がされ、両手を挙げて降参する。一瞬だけ視線を合わせて、互いになかったことにした。立ち上がって埃や草を払っていると、呆れ顔のノアが近づいてきた。


「何やってんだ、キヨ」


「ん? ああ、連絡しとくよ。援軍が来るってさ。指揮官はクリス」


「今頃、か?」


 手柄だけ奪いに来たんじゃねえか。そんな口調で後ろからジャックが距離を詰める。傭兵にしてみれば露払いをさせられた気がして気分が悪いのだろう。確かに危険度はそれなりだったが……。


「オレがっ、いた、から……楽、できたろ?」


 自分で言いながら笑ってしまった。腹を抱えて告げた内容に、ライアンが「まあな」と相槌を打ち、レイルが辛辣な一言を放った。


「お前じゃなくて、聖獣のお陰だろうが」


「違いない」


 サシャのトドメで、オレは今度こそ尻もちついて笑い出した。

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