93.そもそもお湯が沸かせたじゃん(3)
魔法がある世界に転生できますよ……と言ったカミサマが最後に言葉を濁したのは、絶対にこの世界が物理優先だったからだ。つまり詐欺行為だと知っててオレを送り込んだわけで。
「もっとチートが欲しかった」
料理の知識も含め、オレが知ってる知識は意外と役立たずだった。似た味を再現することができたとして、電子レンジは作れないし、火を使わないと飯一つ作れな……あれ?
「キヨか」
自分は暖かいアジトとやらで寝たのだろう。早朝の広場で噴水の縁に腰掛けたレイルが、ひらひらと手を振る。近づいて隣に腰掛けながら、昨夜片づけなかった鍋を覗き込んだ。
「なあ……オレ、昨日蒸し料理作ったよな?」
綺麗に食べ尽くされているのは問題ないんだが、ひとつ重要なことに気づいた。
「ああ、赤い龍のブレスを応用してお湯沸かしてたな」
「だよな? 火が使えないから苦肉の策だったんだけどさ。考えてみたらコウコがブレス(極小)でお湯沸かせるなら、蒸し料理じゃなくて鍋も出来たんじゃない? 沸騰したところに火の通りがいい乾燥野菜ぶちこんだらスープ飲めたじゃん」
そう、昨夜お湯を沸かしたのだ。ならば温かいお湯をそのまま活用すればよかったのに、考えが電子レンジに固執していて蒸す方向へ行ってしまった。
「ん? 蒸したもの旨かったぞ」
そういう問題じゃないが、まあ美味しかったのは認める。頷いたオレはそれ以上話さずに、欠伸をして隣の男に寄り掛かった。
「なんだ、子供はまだ眠いのか?」
揶揄うレイルの声も遠くて、ぼんやりしながら頷いた。いつもはすっきり目が覚めるんだけど、どうしてか眠くて……前もこんな経験したと思いながら目を閉じる。
「キヨはまた寝たのか」
ジャックの声が聞こえると、がやがやと人が集まる気配がする。意識がまるで剥離したみたいに、ぼんやりした意識は起きてるのに身体は完全に眠っている状態だった。耳に飛び込む話を聞くともなしに流していく。
「前も起きられなかったな。魔力が乱れてるんじゃないか?」
「新しい聖獣と契約すると、しばらく怠そうだけどな」
「魔力量が増え続けてるから、疲れるんだろ」
それぞれに見解を述べる彼らの声に、起きなくちゃと思う。もうすぐヒジリが何か食べ物を持ってくるから、肉を入れたスープを作って……まずコウコに頼んでお湯を沸かす。乾燥野菜と肉を入れて温かいスープを――半分眠った意識で料理の手順を思い返していた。
そのため傭兵達の話が別方向へずれていたことに気づくのに遅れる。
「キヨについていく奴は、どのくらいいる?」
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