197.夜営なら森だろ(2)

 足踏みするなら森の中と決まり、さっさと準備を始めさせた。取り出したテントは森の木々を上手に避けて張られ、その中に折り畳みベッドが大量に並べられる。傭兵全員に使っても余るので、少し離れた場所にどっさり積んだ。ここら一帯を野営地にする。


 捕らえた襲撃犯をまとめて木に縛り付けた。水と最低限の食料は与えるが、それ以外は放置だ。繰り返すが、それ以外は放置。濡れた下着で大事な所がかぶれてしまえ!!


 オレが高笑いしながら罰を口にすると、気の毒そうな顔でジャック達が捕虜を眺める。殺すのは平気なのに、放置は非道とは言わせないぞ。


「はい、テントを張って」


 襲撃犯を縛った木から少し離れた場所に、テントを張る。そのたび近づいて魔法を施していると、近寄ったサシャが不思議そうに屋根を見上げた。


「天井を黒くするのか?」


「深緑ね。これで空を飛べる奴から見つかりにくくなるだろ」


 木々の間に張ったテントは、素材の関係でアイボリーだった。上から見たら「あ、テント」ってすぐバレるじゃん。こっちから上空の敵は発見しづらくなるのに、攻撃されてから気づいても遅い。さらに結界を張る予定だった。


 普段と違い、ドーム状態でいいと思う。いっそ木ごと囲ってやろうか。有り余る魔力に感謝しながら、淡々と屋根の上を偽装し続けた。一色だと目立つかも知れないので、迷彩柄っぽくしたのがこだわりだ。


「ボス、食事の煙はどうする」


「それより食料が足りないんじゃないか」


「大事なのは獣除けだ」


 それぞれに意見を出す傭兵達を集め、上がった懸案をひとつずつ潰す。


「調理時の煙はブラウとスノーの連携で吹き飛ばすから心配無用。食料は現地調達、狩りはヒジリやスノーが手伝ってくれる。獣除けはオレの結界があるから問題なし。他には?」


「南の兵も面倒見るのかよ」


「寝首かかれるぜ」


「……寝首、かく? あの程度の実力で、オレ達の……え? 寝首かかれる初心者いたっけ?」


 嫌味じゃなく、本気で驚いた。何の心配してるんだよ。早朝どころか昼間でも夜更でも関係なく襲われた訓練に比べたら、全然平気じゃん。ゆっくりキャンプしてる間、どれだけ気を抜くつもりなんだ。


 顔を見合わせて、連中はオレに目を向けた。なにそれ、オレが一番危ないってか?!


「オレ?」


「ボスが強いのは承知してるが、何しろ……ほら、子供だし」


「ふーん」


 顔をじっくり眺めて覚えていくと、バツが悪いのか視線を逸らされた。ジークムンドがいないと随分舐めた態度だけど、まあこれが当然なんだろう。

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