139.わかりやすい敵対行為の裏は?(2)

 隣のレイルは「マジ? おれは普通だけど」とグラスを交換し、中身をわずかに口に含んだ。すぐに眉をひそめて「ホントだ」と呟く。途端にヤンデレ兄シンが過剰反応した。


「キヨ、またか!? もう北の国に連れ帰って部屋から出さないぞ」


「落ち着いてよ」


 宥めながら、毒のグラスをもう一度あおる。口をつけて傾け、中のワインらしき酒を少しだけ舌の上に流した。先ほどのべたべたに甘い毒と違い、今度は苦い。共通点は、どちらも口に含んだだけで気づく味の毒を使った点だ。


 もしかして……何かの警告、かな?


 ぺろりと舌で唇を舐め、グラスを足元に落とした。ぱりんと音を立てて割れるグラスがもったいない。王族の端くれらしからぬ感想を抱きながら、わざと隣のレイルに寄り掛かった。毒を確かめるために距離を詰めたレイルが近かっただけなのだが、むっとしたシンが押しのけてオレを抱き締める。


 寄り掛かったオレから自由になった途端、レイルは表情を作った。


「可哀想に……すぐに解毒してやるぞ」


 親切で優しい従兄弟を装いながら、レイルが懐からごそごそとケースを取り出した。実際は収納魔法が使えるから、レイルの収納から出たのだろう。服の中にしまうのは無理がある大きさのケースを開いた。中には毒と薬が大量に並んでいる。


 あれだ。試験管の小さいのをイメージすると近い。あれがびっしりとケース内に並んでおり、模様みたいな記号が記されていた。万が一の場合に悪用されないため、彼は常に暗号を使用する。幸いオレは弟子だから意味がわかるけど……。


 恐怖のすし詰め教育の中に含まれていた毒の授業は、こんな場面で役立つ。まあ皇帝陛下の毒見役をするために必要だった知識と実践が、王族になったせいで最重要にランクアップ中だった。


「いかがなされましたか?」


 乾杯が終わると、貴族達はある程度自由に動けるようになる。リアムの護衛をクリスに任せ、シフェルがメッツァラ公爵家当主として顔を出した。普段の騎士服ではなく、中世のお貴族様のふりふり衣装だ。なんだこれ、顔がいいと似合うな。コスプレみたいと笑ってやるつもりだったのに。


 ぐったりしたフリで兄に寄り掛かりながら、心の中で悪態をつく。そんなオレの目が潤んで頬が赤いのは、多少なり服毒した影響だろう。熱がある子供みたいだ。うるうると無力な子供じみた態度で黒豹に跨るオレの頭は、シンの腕にがっちりホールドされていた。


 そのままだと首が締まるから、ちょっと緩めて欲しい。


「口先で祝福を述べながら他国の王族に毒を盛るのが、この国の作法か」

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