252.男装した陛下の女装(3)

 結界を解いて、ここからはクリスティーンや侍女も交えて、テントの中で土産品の山分けだ。化粧品は人気で、特に基礎化粧品は大騒ぎだった。何でも有名なお店の高級品が混じっていたらしい。


 オレは前世も男で「化粧品って高い」というテレビの言葉くらいしか知らないから、言われるまま払ってた。高いなとは思ったけどね。あと「女性は大変だな」と大量の種類を見ながら感心した。これを順番につけるんだぜ、毎日。さらに顔を美しく見せるために色を塗り、髪を結って服を買う……こりゃ男は女に勝てないよ。


 デートで飯ぐらい奢るわ。飯代のが安いもん。女性の綺麗って、お金が掛かるんだと実感した。


「セイ、私はこれが良い」


「口調をもっと柔らかくしてみて。あとは名前をリアって呼ぶね」


 せっかく美しく装っても、その皇帝口調じゃバレる。何より、オレが「リアム」と呼んだら台無しだ。だから女性の愛称でも一般的な「リア」まで縮める。そう告げると、頬を染めた愛らしい美少女が「うん」と可愛く頷いた。


 何なのこれ、オレへの褒美? 死ぬ前の走馬灯? え、オレの心臓止まるんじゃね? 興奮状態でリアムの肩を抱き寄せてみる。後ろからクリスティーンに叩かれた。


「あのさ、クリスティーンはそんなに持ってかなくても、シフェルが化粧品を買い込んでたよ? 大切な奥様へのプレゼントだって聞いたから、知らないフリして受け取ってやってよ」


 賄賂としてシフェルに払った化粧品が被ると勿体無い。そんな思いでそっとバラすと、頬を染めたクリスティーンが抱えた化粧品を中央へ戻した。山が増えたので、また侍女やリアムが分け合っている。


「……大切な奥様、と?」


「うん。言ってたよ」


 これも賄賂の一部。シフェルから受け取って喜んでもらわないと困る。もう持ってるなんて言われたら、シフェルが撃沈して使い物にならないじゃん。これから貴族との対決が待ってるんだから、シフェルやベルナルドには、役立ってもらわないとね。


「セイ、この色はどうだろう」


「似合う! リアに似合わない色なんてないけど……今気づいた。セイって呼んだら、皇帝陛下だってバレるじゃん?」


「「「あ」」」


 クリスティーンと侍女達が声を揃える。セイという呼び方は、皇帝陛下が自分専用と決めてしまった。つまり外で呼べば、皇帝陛下は可愛い女の子と情報が繋がってしまう。


「キヨ?」


「何でだろう、すごい新鮮で恥ずかしい」


 オレの耳や首が赤くなるのが自分でわかる。照れたオレ達を見ながら、侍女達が「微笑ましいですが、羨ましい」と呟いた。それが聞こえた途端、リアムの頬や首が真っ赤に染まる。うわ……目の保養……毒? どっちにしてもご馳走様です!

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