105.野菜と果物の定義はあってた(2)

 蜜柑もどきの残りを手に取って、シフェルに見せる。


「これって野菜?」


「ええ。果物ではありませんね」


「果物と野菜の定義は……」


「木になる実が果物で、1年で枯れる葉物や蔦になる実が野菜です。地下に実がなる種類も野菜に分類されます」


「……ここまでは前世界と同じだ」


 メロンやスイカが野菜扱いなのを思い出しながら頷いた。間違ってない。なのになぜ蜜柑が野菜分類なのか。


「これはどうやって収穫するの?」


「木に絡みつく蔦科の植物に実ります。甘い香りがしたら収穫時期ですね」


「蔦に、蜜柑?」


「状況が掴めた! セイが知る実は「ミカン」で木になるのだろう。だから果物だと思った!」


 どうだ! 得意げに胸を反らせて推理を披露するリアムが可愛くて、微笑んで頷いた。


「お見事!」


 にこにことコウコやスノーを撫でる皇帝陛下は、実年齢よりさらに幼く見える。この可愛い人を嫁に出来るとか、異世界は最高過ぎて天国みたいだ。


「普段、この実は煮たりスープの材料になります」


 だから驚いたのか。煮てスープに使うのは、あれか。南瓜のスープが甘いのと同じ話だ。見た目には抵抗があるが、そういえば晩餐マナー習った時に甘いスープが出たっけ。


 たいていの食べ物が同じだから安心してたが、時々バグったみたいに違いが顔を出すので、今後もお騒がせ野郎の肩書は取れそうにないな。


「野菜なら身体に優しいし、侍女にも甘いものを叱られない」


 どうやら甘いもの制限があるらしい。リアムが機嫌よく発言したことで、シフェルも頷いた。


「確かに野菜なら咎められませんね」


 ぴくりと足元のヒジリが顔をあげる。見ると全員紅茶を飲み干していた。ブラウは自力で薔薇から脱出したらしく、毛繕いの真っ最中だ。リアムの膝の上でスノーが居眠りを始めた。羨ましいぞ、このやろう。


「メッツァラ公爵閣下、準備が整いました」


 敬礼した騎士が薔薇の外から声をあげる。届いた声に「わかった」とシフェルが短く返した。どうやらヒジリが反応したのは、近づく騎士の足音だったらしい。


 聖獣達の器を片づけながら、オレは飲み終えた紅茶のセットも回収していく。簡単な浄化魔法で食器が綺麗になるのは、とても助かった。この世界の魔法は有機物に作用しないことわりがある。つまり魔法で人を焼き殺したり、氷で他人を貫いたり出来ないのだ。


 この世界はとても優しい――オレが知る魔法はゲームの中や映画で観たものだ。魔法が人殺しの道具になっていたら、きっと殺伐とした世界だっただろう。


 銃で戦争をしているが、それは前の世界の延長感覚だった。身近は平和だったけど、他国は銃で人を撃ち戦っていたのだから。最初は物足りなさを覚えたけど、今になれば魔法で人を傷つける世界じゃなくてよかった。


 隣の黒髪美人の手を取りエスコートしながら、オレは笑った。


「よし、結界実験をしようか」

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