第19章 非常識さで世界を渡る

105.野菜と果物の定義はあってた(1)

 まずスノーが作った水をポットに満たし、コウコが温度を操って沸かす。上から茶葉をいれて、蒸らしたら……先日もらった果物を風でカットした。ヒジリが皮を剥いた実を欲しがるので、半分ほど口に入れてやる。猫科だが、蜜柑たべるのか。


 まな板も包丁も出さなくていいし、料理の腕と関係なく綺麗に切れるのもいい。魔法って万能だよなと思いながら、取り出したカップを浄化して果物を並べる。見た目良く配置したら、熱い紅茶を注いだ。


 ここまで風魔法を駆使したので、一切茶葉や果物に触ってない。すごく衛生的だと思うわけだ。前世界でも衛生面で革命的だよね。医療分野にも応用できそう……風のメスとか。


 ドラマで見た医者の「メス」ってシーンで、呟きながらさっと患者の上で指先を振ると切れる。すぱっと美しい切れ味で真っ二つ――あ、間違えた。グロ映像になった。


「キヨ、キヨ!」


 しつこくシフェルに呼ばれ、飛んでいた意識がグロ映像から現実に戻ってくる。目の前の紅茶は甘い香りを漂わせていた。果汁も程よく出たらしく、紅茶が濁る。


「ん? なに?」


「紅茶、ですよね……これ」


 ほかに何に見えるんだ? どうみてもフルーツティーだろ。この世界だってジャム入れて飲んだりするから、同じじゃん。



「そうだよ。熱いから気を付けてね、リアム」


 ふーふーと温度を冷ましてから渡す。自分の分も冷まして口を付けた。やっぱり甘い。柑橘系の見た目してるくせに、思ったより果糖多いな。お菓子に使った方が向いてるかも。でもパウンドケーキやタルトを焼く技術はない。


 正確には分量知らないから、適当に作って爆発させながら実験するしかない。クッキーの時も、覚えるまでに数回爆発したし。粉塵じゃなくても爆発するのが怖かった。しかし恋人を喜ばせるためなら、努力できそう。毒見役の傭兵は沢山いる。まあ……失敗作処理係という表現の方が近いか。


『主殿、我も欲しい』


「最近、何でも欲しがるよね」


 聖獣用の食事の器を並べて、紅茶を注いでみた。もちろん蜜柑もどきも一緒に入れる。


「美味しい」


 甘いものが好きなリアムの感想に、オレはこっそり決意した。明日はクッキー以外もチャレンジしよう! と。オレが先に毒見をしたので、シフェルやリアムも口を付けた。


「野菜を入れたお茶は初めてですね」


「うん?」


 今奇妙な単語が聞こえた。果物じゃなく、野菜――?!

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