214.カッコつかねえな、おい(2)

「くそっ! 馬鹿か!! なんでこっちの敵を狙うんだ」


「だって、映画だったら互いの背を狙う敵を倒す場面シーンだろ」


「知らねえよ、その映画っての……現実じゃ死ぬぞ。てめえを狙う銃口だけ排除しろ!」


 確かにそれもそうか。この世界は自己責任で生き残るのが基本ルールだから、互いに振り返って自分を狙う敵を撃つのが正解だった。オレが映画に毒されすぎてんのか。うーん、でも振り返るより、互いに信頼して敵を倒し合う方がカッコいいし早いのに。


「仮想の想定に基づいたフィクションです!」


 エンドロールに流れる注意書きみたいな言葉を吐いて、同時に左右へ分かれた。これで同じ方向へ移動してたら頭ぶつけたかも。


『ご主人様の敵っ!』


 叫んだマロンが全力で突進し、ぶつかった敵が真っ二つになった。ちょ、いまの技なに!? ブラウの風みたいだったぞ!


「マロン、マロン」


 手招きすると、興奮した様子の馬は全力で突進してきた。ヤバイ、あれだ。ほら、牛の前で赤い布振る競技! 次はオレが跳ね飛ばされるか真っ二つ?


 呼んだのに申し訳ないが、ここは全力回避だ。タイミングと距離を測って、ぽんと地を蹴る。舞い上がったオレの身体がマロンを飛び越え、彼の後ろに着地した。


「よしっ」


『呼ばれたのに……』


 しょんぼり歩いてくるマロンを、今度は抱きしめてやる。元の大きさに戻ったマロンの首筋に顔を埋め、栗毛に黒が混じった鬣を撫でた。


「勢い怖いんだよ、次は人の姿で駆け寄ってこい」


『こう、ですか?』


 ぱっと馬が消えて、オレによく似た子供が立っていた。うん、これはお約束のあれが欲しい。


『やだ、その子そっくり。あなたの子?』


「そうそう、それだよ!」


 巨大なままの青猫とハイタッチするオレを、レイルが呆れを含んだ目で見ていた。それから短くなった煙草を収納空間へ放り込む。この世界、収納があれば携帯灰皿不要かよ。すごい便利だ。まあオレは喫煙予定ないけどね。


「ボス、飯ぃ」


「オレは飯じゃありません!」


 これまたお約束回収だ。ほくほく顔で歩くオレの手に、少し小さな手が触れた。でも繋がないでそっと指を掴まえただけ。ぎゅっと繋ぎ直せば、驚いて見上げてきた。


「なに? 嫌だった?」


 首を横に振るマロンを連れて、天幕だけの料理用テントに入った。小さな子供になったマロンはオレによく似ている。だから起きてきた傭兵も特になにも言わなかった。一部の連中は、前にマロンの変身を見ていたから、すぐに納得する。


 取り出した椅子に立たせて、ナイフと芋を手渡す。きょとんとした顔のマロンに仕事を言いつけた。


「この芋を剥くのが、今回の騒動の罰だ」

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