15.訓練は、三途の川原でした(10)

 冷たい手が額に触れ、今度こそ目を開いた。潤んだ視界で苦笑いするレイルが「悪かった」と呟く。


 そのまま抱き起こして錠剤を口に放り込まれた。口の中が乾いていて、ぺたりと舌の上に張り付く。苦い味に顔をしかめるオレに水のコップが宛がわれた。


「ん……」


 必死に冷たい水を飲む。ぺたりと張り付いた喉の奥が開いていく感覚が気持ちよかった。


 これ、結構高い熱が出てるな。


 水もレイルの手もやたら冷たい。オレが発熱している所為だろう。すり寄る仕草を見せると、背中を支えるレイルの手が動いて抱き上げられた。


 そのまま立ち上がったレイルの腕の中で、もぞもぞ動いて向きを直す。ついでに腰のベルトに触れて、1本引き抜いた。


「レイルさん、やりすぎです」


「悪い、実戦用のナイフを使っちまった」


 シフェルとの会話に気を取られたレイルの首裏に左手を伸ばし、彼の背に回した右手のナイフを放り投げた。陰で行った作業に誰も気付いていない。


 左手の指に掠めたが、何とか落とさずに受け止める。


「どうした……、っ!?」


 変な動きにこちらへ意識を向けた時は、すでに決着が付いていた。左手のナイフの刃を、レイルの喉に当てる。


 ごくりと唾を飲む動きで、薄皮一枚切れたらしい。鉄錆た血の臭いがした。青ざめた顔で口元を歪めて笑みを作る。ここで弱みを見せたくなかった。


 訓練なのに毒を使うほど、レイルを本気にさせたってコトだよな?


「……オレの、勝ち」


「はいはい。ったく、大したガキだ」


 まだ戦う気なのかよ。そんなレイルの呆れ顔に、ぎこちなく笑う。ここで意識を失うわけにいかないし、具合の悪さを素直に教える気もなかった。


 震える手で構えるナイフは、あっさりシフェルに取られてしまった。正直、ほとんど力が入らない。左手で受け止めた時、落とさなかったのが不思議なくらいだ。


「今朝はここまでにしましょう」


 シフェルの宣言をもって、朝の訓練ーーと呼ぶには物騒すぎる実戦ーーは、ようやくお開きとなった。

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