289.事情はわかった、反撃だ(2)

 まずノアは後方戦力とする。理由はリアムの護衛だ。ベルナルドを前衛に出すから、代わりに守って欲しいと伝えた。じいやも接近戦なら合気道で応戦可能で、身を護るくらいの銃の腕前はある。リアムの護衛としてコウコもつけた。尻尾を振る彼女は、リアムの影に潜む。


 ほぼ完ぺきな布陣だった。現在望める最高峰だぞ。リアムはじいやとコウコが守り、体力が落ちたノアの安全も確保できる。その上、ノアがいれば緊急時の対応も万全だろう。何しろ気遣いのオカンだからな。


 オレはジャック達を引き連れて、ライアンと合流からスタートだった。分散する戦力は集めるのが大事。当然だけど、リアム達をここに置いて行くことはしない。正直、オレの近くが一番危険で一番安全なんだよ。狙われる可能性が高く多少怖い思いをしても、一緒がいいと言ってもらえて浮かれてるのもある。


「ライアンだけ、来い! って召喚出来たら便利なのに」


 ほら、あの使い魔を呼び寄せるみたいな? 使役獣もそうだけど、契約してると呼べるやつ。傭兵も契約してるんだから、召喚出来たら便利だ。ぼそぼそと呟くオレの言葉に反応したのは、足元から顔を見せたヒジリだった。


『しょうかん? とやらは知らぬが、転移を応用すればよいのではないか? 我が主殿ならば可能であろうよ』


「おお、ヒジリ。久しぶり。こないだの狙撃犯捕まえてくれた?」


 するりと外へ出てきた黒豹は、ぺろぺろと前足の肉球の手入れをしながら誇らし気に頷いた。ブラウと違うからね、間違えて殺しちゃう心配はないし。確実に捕まえてくれると信じてましたとも。


「転移の応用っていうと……」


 想像できる魔法が思い浮かばない。やっぱり召喚魔法陣か? 魔族呼び出し用を使った転移魔法陣は範囲確定用だから、あれの応用で誰かを連れて来れる認識で合ってる? 怖いからいきなり試すのはやめよう。まずは物や小動物からだ。この場でライアンに転用して、足や腕だけ届いたら泣ける。


「その辺は実験してからね。いきなり使って失敗したら怖い」


「まあ、首だけ届いてもなぁ」


「使われても嫌だ」


 ジャックとサシャが苦笑いする。そうか、手足じゃなくて首が届く可能性もあったんだ。余計に怖いから使わない。


「オレが同行しての転移なら問題ないだろ。魔法陣の輪から出なけりゃ手足が欠けることもない」


 大きめに描いた魔法陣に全員で飛び乗る。ヒジリも興味深げに文字を眺めながら乗った。スノーが最後に雪の小人を連れて走り込んだところで発動する。魔法陣は転移の範囲を確定する目印だから、本当は光の輪やベタ塗りの円でもいいんだけど。厨二患ったオレとしては、見た目にこだわりたい。


 ぱっと景色が変わった。そういえば、転移の途中はなぜか目を閉じてるんだよな。転移中の景色を見た記憶がないから。いつか見てやろうと思ってるのに、毎回目を閉じてしまう不思議……世界の仕様だったりして。


 目に映ったのは、まさかの地下牢だった。しー、口に手を当てて声を出さないよう指示を出してから暗闇に目を凝らす。地下牢なのは間違いない、振り返ると牢の鉄格子が見えた。その向こうは明るいから、こちら側が牢内だろう。


「誰だ?」


 掠れてなくて元気そうな声はライアンだった。奥へ向かうとさらに暗くなるので、ぼんやり間接照明規模の光を灯す。手のひらに丸い電球を乗せたイメージにした。明るくなる牢内は意外と綺麗だ。鼠や虫は見当たらないし、じめじめと濡れた様子もなかった。窓は一切なく、後ろの鉄格子からの出入りしか出来ない。


 ライアンらしき人影が身を起こし、オレはどきっとする。血の臭いだ。足を踏み出す彼の服は赤く濡れて、酷い有様だった。これは擦り傷や切り傷か。打撲も複数見受けられるが、銃で撃たれた様子はない。生きててくれたことにほっとした。

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