70.イマイチ格好つかない戦果(3)

「もういいよ、コウコも助太刀のつもりだったんだし」


 足元で騒ぐ兵から銃弾が飛んでくる。ヒジリは気にしていないが、これって当たったら痛いと思うわけで。


「もう少し上空で話しない? 撃たれそう」


『主殿……結界を張ればよいではないか』


 呆れた口調でヒジリに言われ、ぽんと手を叩く。そうだった、オレの結界は銃弾を防げる! 目に見えた方がわかりやすいから、薄い水色のガラス板を置くイメージで結界を展開した。見えるようにするだけで、いつもより魔力が減る気がする。ごそっと……大量に力が抜けた。


「う……気持ち悪い」


『こんなに強い結界、必要かしら』


 コウコが魔力を使いすぎと指摘すれば、ブラウはにやにやしながら失礼発言を繰り出した。


『主は魔力の操作が下手だから』


「せめて、苦手と言え」


 ブラウに反論しながら、ヒジリの背中に懐く。ぺたりと頬を寄せれば、やや冷たい黒い毛皮が優しかった。頬に触れる柔らかさはもちろん、やっぱりヒジリの背中が一番安心できる。


 しかし一人だけ安全地帯で毛皮と戯れている場合ではない。戦場の状況を見回して、自分が任された傭兵部隊を上手に運用しなくては……!?


「ヤバイ! ヒジリ、あの赤い布被った男の上でおろして」


『主殿?』


「はやく!!」


 指差した場所にいる大柄な男は真っ赤な布を、頭巾みたいに被っていた。その男の前で縛り上げられているのは、西の自治領で仲間になったユハだ。縛られる様子からすぐ殺される心配はなさそうだが、連れ去られた場合に彼は見捨てられる。


 自惚れるわけじゃないが、オレのときは救出する『価値』があった。異世界人で、皇帝陛下のお気に入りなのだから。しかしユハは違う。西の国から亡命した兵士に過ぎなかった。


 中央の国にとって、彼は救い出す価値がない存在と判断される。でもオレにとっては命の恩人 (仮)だし、何より部下をこれ以上死なせる気もない。


 ヒジリが宙を駆けて現場におりる。そこで気付いた。この場所が一番酷い戦場だった。血塗れの人が転がり、撃ち抜かれた腕を止血する男や足を引きずって逃げようとする奴がいる。


「貴様、どこから…っ!」


「さて、どこからでしょう。まずソイツから手を離してもらおうかな」


 怒りが突き抜けて、感情がちぐはぐに頭の中で踊る。遅れてきて味方の状況を把握できていなかった自分、オレの仲間である傭兵連中を傷つける北兵、捕まりそうな味方の姿まで――何もかもが怒りの対象だった。

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