290.戦場のティータイム(2)

「ライアンはここで補佐。遠距離からの狙撃による援護を頼む。サシャはライアンの護衛ね」


 頷くとライアンは周囲を見回した。茂みの上の木ではなく、離れた位置にある小屋に向かった。あの場所の方が狙撃地点に適しているらしい。


『主ぃ、僕もクッキー』


「遅い、もう移動するぞ」


 出てくるのが遅いんだよ、何してたんだ。皿の上に残ったクッキーを、ざらりとブラウの口に流し込んだ。ぼりぼりと噛み砕きながら、彼が思わぬ朗報をもたらす。


『教会からここまで連れてきちゃった』


 僕を褒めて。寝転がりながら予想外の発言をするブラウに眉を顰める。何をどこから連れてきたって?


『ほら、主が欲しかったのってコレでしょ?』


 寝転がって腹を見せる青猫が指し示したのは、頭上に不自然に浮かぶ畳だった。あれだ、アラジンの空飛ぶ絨毯っぽい感じだが……畳。


「畳?」


「上に何かいるぞ」


 言われて下すように頼んだところ……結界の外側に子ども達を含む数十人が並んだ。


「状況が理解できてないんだが」


『主はどうせ全員助けるって言い出すと思ってぇ、僕はマロンの後ろから忍び寄って獲物を捕獲したのさ』


 獲物じゃねえし、捕獲するな。マロンは愕然とした顔で振り返った。


『僕の手柄を横取りしたんですね!? ブラウのばかぁ!!』


 ポニーの蹴りが腹に決まり、ブラウが悶絶する。と言っても、どうせフリだろうが。ここで順番を間違えると事件だ。マロンを引き寄せて鬣を撫でながら「よくやった」と褒める。ちゃんと役に立てたぞとスキンシップで示した。


 それから転がるブラウをモフって顔を腹に埋める。すーはーして両手で褒め称えた。


「キヨ、忙しいとこ悪いんだが……彼らを保護した方がいいぞ」


 ジャックの提案で、慌てて結界内に取り込んだ。畳の上でビクビクしていた子ども達はブラウを見ると目を輝かせた。逃げる前に捕まり、耳を掴まれて撫で回される。尻尾もがっちり握られていた。


『あ、主ぃ』


「がんばれ、ブラウは出来る子だ」


 子守は任せた! 丸投げして、ライアン達に戻るよう合図を送る。じいやは複雑そうに切り出した。


「事件は解決してしまいましたな」


「本当だよ。勝手に動いてるのはいつもだけど、珍しく先行されちゃった」


 嘆くことではないので、気持ちを切り替える。


「作戦変更。アーサー爺さんのところへ転移します。準備して、はい」


 獣人と子ども達は手を繋ぎ、足元に描いた魔法陣に飛び乗る。それを玄関ホールに転移させて、戻ったライアン含む傭兵達を飛ばし、次にリアムと手を繋いでベルナルドやじいやと消えた。


 教会もどきは誰もいなくなったが、それを知らない兵士達は未だに取り囲んでいるだろう。敵兵力の削減も出来たという一石二鳥だ。


「うわっ、こら移動しろ」


 転移で現れた獣人達の上に傭兵が落ち、最後にオレ達が重なった。すぐさま助け起こされたが、下敷きになった獣人は無事か?! 覗き込んだところ、子どもや女性を抱きこんで守った獣人のおかげで、ケガ人はほぼゼロだった。かすり傷程度は数人いたので、絆創膏もどきを貼り付けてお詫びしておく。


「キヨヒト様ですか?」


「ああ、久しぶり。ってほど離れてないけど。アーサー爺さんを助けにきたぞ」


 目の前に現れたジャックの祖父ににっこり笑い、リアムを抱き寄せた。

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