203.聖獣の契約解除?(3)

「最初からそう言え。紅なら東の特産品だったか」


 女性物は買わないからわからん。首をかしげるレイルの後ろから、ジークムンドが声をかけた。


「東の国の化粧品は人気あるぞ。土産なら知ってる店を紹介してやる。表通りの店は他国人を騙すからな」


 あちこち出歩く傭兵は地方の特産品に詳しい。娼館に寄ったりする彼らだから、お気に入りの子にプレゼントすることも多いようだ。ジークムンドに「よろしく」とお願いした。もう一度要望を伝えておく。頷く彼が請け負ってくれたので、きっと問題なく入手できるはずだ。


「お前の部隊は、この世界の縮図だな」

 

 レイルが感心したように呟く。


「あの連中は東、こっちは北、あちらの数人は中央だ」


「ユハは西だったかな。南はジークがそうだったかも?」


 黒酢をくれた時にそんな話をしていた。そう考えると確かにあらゆる国の人間の集団だ。さらに属性も竜のオレから始まって、犬、猫、熊、牙、魚……ほぼコンプリートじゃないか? 50人ほどの集団なのに、傭兵は属性も出身地もごちゃごちゃだった。


「よくトラブルにならないもんだ」


 煙草に火をつけて吸い込みながら、レイルが不思議そうな声を出した。彼も孤児を拾い集めて組織を作ったから、生活環境や習慣の違いで起きる騒動をいくつも経験している。大人だと言っても、傭兵は自分勝手に生きる奴が多いから纏まらない。


 そもそも傭兵の集団は出身地が偏ってる。元は互助会の一種で、同じ習慣を持つ連中が結束したのが始まりだと教えてもらった。平民も貴族も敵の状態で、同じ価値観を持つ奴が固まるのは理解できる。


「異世界人が混じってるんだぞ? ごちゃごちゃに決まってるだろ」


 食事ひとつ取ったって、ケンカから始まる連中だ。新しい物や知識を持ち込めば「常識がない」と言い放つ傭兵に慣れただけだ。そう言って肩を竦めたオレに、レイルは呆れ顔で指摘した。


「お前が強制的に纏めたんだろ。もっともジャック達の影響が大きいけどな」


 確かにそうか。オレが何か非常識なことを始めると、ジャックやノアが擁護してくれる。ライアンやサシャも否定しないで手伝った。ジークムンドが自分の部下の統率を引き受けるから、オレは指揮官の苦労なんてしてない。


「恵まれてるんだな〜」


 にこにこと脳天気なことを呟いたオレの腕の中で、スノーが大声を出した。


『主様! 解除できました』


「え? 早っ……じゃなくて、現地に行く必要ないの?」


『なかったです。僕も初めて知りました』


 興奮で頬を赤くした白トカゲが、ぶんぶんと尻尾を振る。得意げに『初めての契約解除です』と告げるスノーを複雑な心境で眺めるオレの足元で、ブラウがぼそっと呟いた。


『初めてのおつかい……』


 あれか、幼児をぐるりと関係者が守りながら買い物や届け物する番組! 思い至った途端、盛大に吹き出して腹が痛くなった。

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