313.家族水いらずの裏側(2)
帰ったらカレーの量産体制の準備をして、リアと街中デートの計画を練らなくてはならない。オレは意外と多忙の身なのだよ。
階段が湿ってカビ臭いのは、地下牢のデフォだ。ジメジメ感が罪人の精神を削り、まずい食事と監視される狭い空間が心を折る。そういう地下牢しか認めないぞ、オレは。だから目の前の快適そうな地下牢に、怒りが湧いても仕方ない。
罪を犯した高貴な方々にお留まりいただくお部屋……そう表現したらぴったりきそうな部屋だった。まず地下牢なのに水が滴ってない。おかげで湿度が低くて、クーラー効いてる感じがした。ひんやり快適だ。ジト目になりながら進むオレを案内するレイルが、肩を震わせて笑う。
さては知ってたな? くそ、最初に言ってくれたら、普通の牢屋にぶち込ませたのに。地下牢は湿気とカビがセットなんだよ! 鉄格子がやたらお洒落な装飾付きで、葡萄の蔓が踊ってるようなデザインだ。頑張って全力で蹴飛ばしたら壊れそうな華奢な牢だった。
まあこの辺は異世界特有の魔法強化でもしてあるんだろう、と思いたい。牢の床は絨毯が敷かれ、天蓋付きベッドが置かれていた。さすがに客間のソファはないが、テーブルと椅子は用意されている。
あれか? 上級国民乙! みたいな反感買うぞ。ここを作ったのは誰だよ。というか、許可出したであろう義父を今夜の夕食で〆る。きっちり泣かせる。
「悪くないだろ、おれもここに入ってたんだ」
前科者だったね、そういえば。厳密には父親の罪のとばっちりだけど。牢に入っていた事実は変わらない。ちなみに、途中から塔への幽閉に変わったので長くはいなかったと説明された。その辺の事情はどうでもいいが、この牢に定員って概念はないのか?
ひとつの部屋に10人くらい突っ込んである。そういや罪人が多すぎて牢が足りないから、まとめて放り込んだと報告を受けたか。両側から何やら叫びながら手を出そうとする連中を横目に、一番奥の牢を目指した。偉そうな奴は奥に入れたらしい。
「この辺から公爵と侯爵だ」
レイルが指差して肩を竦める。少し牢内が空いてきた。といっても、6人は詰め込まれている。なぜか大量の木箱と一緒だった。
「あの木箱なに?」
「ああ、何だっけ。ほら、着替えを要求されたので適当に入れた」
サイズも種類も関係なく放り込んだため、開けた木箱の端からドレスが覗いていたりする。問題があるとすれば、この木箱がある牢内におっさんしかいないことか。
「仕方ないよ、忙しかったんだし。それに誰にでも失敗はあるさ」
「そう、失敗はよくあることだ。なのに偉そうに何だかんだ騒ぐんで、腹が立ったから飯を抜いてやった」
「ダイエットになるし、健康療法でそんなのあったぞ。問題ない」
数回に一度飯を抜くだけ。罰としては軽いのだが、肥え太った貴族のおっさんには辛かったらしい。
「あと差し入れに侍女やら若い女を寄越せと騒ぐので、向かいに奥さんや娘さんを入れてやったぞ」
「それはすごい。親切じゃないか、レイル。オレじゃこんな配慮はできないな」
レイルがイイ笑顔で報告するたび、オレは満面の笑みで答えた。すべて褒め言葉や肯定で締め括る。騒ぐ貴族連中が赤くなったり、青くなったり忙しいが……わかってるか? お前ら罪人だからな。
ざまぁはこれからだ! え? まだ始まってないのかって? 閉じ込めたのは罪人だから当然で、罪を償うのはこれからだから合ってるだろ?
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