231.奴隷解放は異世界人の夢ですから(2)

「これを食べて」


 目を輝かせる子供達に渡すときは、手を握ってしっかり持たせた。悴んでるから落とすかもしれないし、ついでに手の傷痕を消したかったんだ。痛みを消したり機能を回復する程度なら触れなくていいけど、古傷の痕は触れた方が綺麗に早く消せる。


 コッペパンもどきを受け取る子供達は、涎を垂らしているのに食べない。勝手に食べると叱られる環境にいたのは間違いなかった。あのクソガキと取り巻きのおっさん連中は、してやんぜ。レイルかシフェルに案を借りよう。オレはざまぁのレパートリーが少ないから。


「食べていいよ。喉に詰まらせないようにね。あとお代わり……えっと、もう1個ずつあげるから焦らないで」


 食べていい、まで聞いた途端に全員が齧り付いた。すごい勢いで喉に押し込もうとするので、窒息するんじゃないかと心配になる。


「レイル、もしかしてだけど……他にも奴隷いそうじゃない?」


 誰かに取られる心配をするってことは、この子供達よりガタイのいい大人の奴隷もいたんじゃないか? でもって少ない食事を掠め取られた。だから食べられる時に、必死で喉に詰め込む癖がついた……こういう展開、どっかで読んだわ。


 胸糞って呼ばれる、嫌な後味の展開。子供達の汚れた手足に気づいて、肩をすくめる。


 ジャックに鍋を渡すと、ヒジリが雪の下の地面を起こしてかまどを作った。理解したらしい。ジャックが鍋を置いて、薪もないのにコウコが火を燃やす。上でスノーが両手を広げて雪から水を作って入れた。


 沸いたお湯に乾燥野菜とハーブを入れ、干し肉も出汁がわりに放り込む。こんな場所でクッキングもないが、ひとまず温かい物を食べさせてやりたかった。


 器を用意したオレの向かいで、レイルが収納から何かを取り出す。保存食だろうか。乾飯みたいな硬い塊をナイフで削りながら混ぜる。徐々にリゾットの米に似た食材が広がった。あれが米なら、是非譲ってもらいたいものだ。


 結界を張って暖かさを保ちながら、奴隷の子を手招きした。近づいた子から温かい汁物を渡す。イメージとしては豚汁おじやか? 具は異世界フリーズドライだったけど。


 受け取る子供に触れた時、全員にクリーンをかけていく。浄化の応用だが手足が綺麗になって、風呂に入った後のようにさっぱりする。オレは主に歯磨きや朝の洗顔代わりに利用していた。


「食べたら移動する」

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