11.拘束状態での拝謁(5)

「まあ……貴方の保護者はもう決まったので関係ありませんけど」


「準備は終わりましたか?」


 侍女に声をかけられ、シフェルを見上げる。


 子供になったのも、外見の色や顔立ちが変化したのも気にしないが、背が低くなったのは不利だ。このモデル顔の男は、今後もオレの邪魔になる気がする。


「はい、行きましょうか」


 だから、差し出された彼の手を拒む。それこそ子供の我が侭さを存分に発揮した。


「やだ」


「……はい?」


 間抜けな聞き返しにくすくす笑いながら「嘘だよ」と手を差し出し、シフェルの手を握る。彼の唖然とした顔に、悪戯成功もあって気分は上昇した。


 どんなに我が侭言ったって逃げられないだろう。前の世界で言えば、天皇陛下にお目にかかる栄誉を蹴るのと同じ。いや権力がある分だけ、今回のほうが厄介かも。


「……いい度胸していますね」


 前半に『このクソガキ』って言わなかったか? 


 もしかして、こういう大人しい奴ほど怒らせると怖いパターンだったり……して。冷や汗が背を伝うが、気付かなかったフリをした。


 痛いほど握り返された手が辛い。


 コイツを怒らせるのは避けたほうが良さそう。


「どうしたの?」


 子供の無邪気さを武器に逃げる一手に転じたオレの小ざかしさに、気付いたシフェルはで引き寄せた。彼の腕に座るような形で抱き上げられ、しっかり固定される。


 暴れれば落ちるし、目の前の笑顔は怖いしで顔を引きつらせていると、

「子供扱いがお望みなのでしょう?」


 100%の嫌味で、それはそれは楽しそうに微笑まれる。黒い微笑みって言葉は、コイツ専用だ。悪魔の微笑みと言い換えてもいい。絶対に悪い意味で使うやつ……。


「……ごめんなさい」


 素直に謝る、これ一択だった。


 これ以上逆らうと後が怖い。皇帝陛下に会う前に、その側近だか部下だかの機嫌を損ねた自分の短慮さに顔が引きつった。


「よろしい。ですがこのまま行きます」


 一息に宣告され、逃げる余地はないと知らされる。ごくりと喉を鳴らして唾を飲み込み、心の中だけで反論する。


『あとでクリスに言いつけてやる』


 抵抗は、情けない他力本願の呟きと睨みつける眼差しだけだった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る