11.拘束状態での拝謁(6)

 金のかかってそうな廊下を進む。両側の絵画も高そうだし、無意味に花も生けてない壷が置いてあったり、シャンデリアも煌びやかだった。ふかふかの絨毯は踏み心地が良さそうで、足首まで埋まる……なんて冗談半分の言葉が浮かんでくる。


 ところで……この国、戦争中だよな? 


 大きな一枚ガラスをあしらった窓や、この宮殿の装飾品はおかしくないか? 地下壕に隠れたり、爆撃があったりしないのだろうか。


 まだシフェルの腕に座る形で抱き上げられているため、大人しく周囲を見回して観察していく。前世界で戦時中といえば第二次世界大戦のイメージだった。


 たしか『欲しがりません、勝つまでは』だよな。本で読んだり、終戦記念日のドラマ放送から得た知識だともっと悲惨な……あ、でもアメリカはステーキ食べながら戦争してたっけ。


 東西南北を敵国に囲まれていると聞いたので、てっきり敗戦ムード満載かと思い込んでました。どうやら負け戦に投入されるわけじゃなさそうだ。


「どうしました?」


「いや、戦時中なのに豪華だな……と」


 素直に答えながら、ちょっとした悪戯心でシフェルの髪に手を伸ばす。謁見のために丁寧に整えたブロンズの頭を、抱きついたフリで崩した。


 ざまあ!


「……動くと落としますよ。まず国力が違います。5つの国がある話は聞いていますか?」


「ああ」


 頷きながら、乱しすぎた髪をそっと戻した。もしかして、本当にさかさまに頭から落とされるかも知れん。つうか、コイツはやりかねない。皇帝陛下に会った後が怖いことに気付いた。


 会うまでは丁重に扱ってくれるだろう。何しろ預かり物と一緒なのだ。しかし謁見が終わった後、コイツがオレの教育をするとか言い出したら……地獄だろ。


 死ぬ寸前までいびられるに決まってる。


 ……いつもギリギリまで追い詰められないと気付けない癖、何とかしないと。そのうち取り返しがつかない失敗をする予感が……あれ、こういうのって『フラグ』とか言うんだよな。


「中央のこの国は四方を敵に囲まれていますが、一番大きな国です。他の4国をすべて集めても、わが国より小さいのですから」


「じゃあ、なんで勝てないんだ?」


 子供は無邪気に核心を突く。意地悪するつもりはなく、本当に素直な疑問が口をついていた。慌てて口を手で覆うが、目を瞠ったシフェルがくすくす笑い出す。


「そうですね、皆思っていますよ。なぜ勝てないのかと」

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