171.やっぱ君かぁ!(3)

『……金の角だ』


 むすっとした口調で言い返され、じろじろと馬を確認する。ヒジリの背に上って、歯を剥いて怒る馬の頭を覗き込んだ。が、残念ながら身長差で見えない。


「見えないから、やっぱり金玉で」


『見せてやる』


 ひょいっと頭を下げて見せてくれた。いい奴だな、馬だけど。尖り具合が足りないが、角と言われればそんな気もする。必死な馬が哀れになったので、同情心から頷いた。


「うん、立派な角だね。悪かったよ」


『わかってくれるか!! いい奴だ』


 気持ちはわかる。修学旅行で毛が生えてるか競ったり、サイズを比べたりするのに近い。毛がなくて小さいと最悪だよな。うんうんと過去の古傷を思い出しながら、金玉ならぬ金角馬と意気投合してしまった。


 首をかしげる傭兵には、いきなり馬と会話し始めた変な奴である。ブラウ達の時もそうだけど、契約するまでこの世界の人間と話できないバグ? みたいなの、何か意味あるのかな。


 もしかして、聖獣と契約できるのは異世界人だけ――いや、そんなフラグ要らない。


『久しぶりに話の通じる奴と出会えた! よし、契約してやろう』


「え? いらない」


 勢いよくお断りした。聖獣は4匹もいて、お笑い担当のペットから、ませた姉、しっかり者の弟、世話焼きママンまで揃ってます。


『主らしい』


『やはり断るのか』


『主人は聖獣に頼らないタイプよね』


『私は頼って欲しいのですけど』


 青猫、黒豹、赤龍、白竜の順で笑い飛ばされた。おろおろする金馬が『皆とは契約したのであろう?』と泣きそう。やばい、虐めみたいだから妥協する? でも、ビンゴはちょっと……。


『簡単だ。無理やり契約すれば良い』


「ヒジリ! 裏切り者!!」


 叫んだオレの声が狭い地下に木霊する。わんわん響いた声に、ブラウ達が耳を覆った。


『主人、うるさいわよ』


『耳が! 耳がぁあああ!!』


「……ブラウ、それは目だろ」


 有名なシーンだけどな。場所違いだぞ。蹲って目を押さえ、ゴメン寝ポーズの青猫に指摘しておく。


『今後は僕もよろしく頼む、ご主人様』


 ――知ってた。聖獣は勝手に契約するって。クーリングオフもないし、こっちから解約できないんだよ。当然のように契約して、仲間ができたと喜ぶ馬に、オレは言わずにいられない!!


「オレは許可してない!」


 叫んだら、後ろの傭兵から文句言われた。くそっ、全員集合してるんじゃねえ!! 後ろから襲われないよう裏口は封印してあるけど、この狭い通路にマッチョが詰まったら出るの大変だろうが!!


 その後、全員外に出て新鮮な空気を吸うまでに30分ほどかかった。疲れて横たわった、オレの名言。


「空は青かった」


『地球だよね?』


 アニメじゃないのによく知ってるな、ブラウ。

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