261.毒の盛り方も知らない素人かよ(2)
コウコが、シャーと牙を見せつけながらオレを守る仕草を見せた。聖獣が怒ってるの部分を強調する演技派のコウコに、今回の助演女優賞をあげよう。ヒジリ達大型の獣が出て来ないことで、彼らが怒って飛び出した説が広がるだろう。
さあ、どうする? 仕掛けたとろり蒟蒻が追い詰められ……あれ、正式名称が思いだせない。目を閉じたまま、オレは頭の中で貴族年鑑を捲った。似た名称がないかな? そんなことをしている間に、牢番や医師が引き上げた。
残る牢番の気配がひとつになったところで、薄目を開けてさらに確認する。寝返りを打ったように見せかけて、檻に背を向けた。首に巻き付いて温まるコウコを撫でて、彼と彼女に「念話届け」と魔力を向けてみた。
びくっとした2匹は周囲を見回し、首を傾げながらオレに視線を戻す。小さく頷いて瞬きすれば、理解したらしい。声を出すと響くから、オレが声じゃない通信方法を使えば、会話してないと牢番が証言してくれる。
『あのさ、ヒジリかブラウに暴れてきてもらえる? 国が滅びない程度で、出来たらトゥーリ公爵家の領地周辺がいい。あとは配下のエロラ伯爵か、ペッコラ侯爵でもいい。オタラ公爵も敵かな。場所は任せる』
さっき思いだした勢力図から名前を羅列する。とろり蒟蒻=トゥーリ公爵が繋がった途端、思いだしたのはウルスラに聞いた家同士の繋がりだった。さて、どこから切り崩すと楽しいかな。
『ブラウがやるわ、ペッコラ侯爵領が足元みたいよ』
『人が大量死しない範囲でお願い』
高級猫缶でも取り寄せてやろうか。お礼を考えながら伝えてもらった。聖獣同士の意思疎通の法則がよくわからんが、元は同一人物だから何とでもなるんだろう。念話って疲れる。
「お、おい……具合、悪いのか? 汗かいてるぞ」
牢番が心配そうに外から声をかけて来る。コウコが派手にシャーと威嚇したため、びくっと後ろに飛び退った。脅かして悪い。念話に慣れてないから、汗をかいたみたいだ。まだ寝たフリをしたいので、呻いてシーツに潜るパターンで誤魔化す。
「その……ひどいなら医者呼ぶから」
声をかけてくれと叫んで逃げて行った。のそっとシーツから顔を出す。蒸れると暑い。
『やだ、主人ったら……本当に熱があるわ』
コウコが首や肩に巻き付く様子を見て、スノーが顔にぺたりと腹を押し当てた。
『効率よく冷やしましょう』
『息っ、鼻と口を塞いでるっ!!』
念話で抗議した瞬間、スノーをべりっと引き剥がした。はぁ、はぁ、荒い息を整えたオレは生きてることに安堵する。危なく聖獣に殺されるところだった。
『ご主人様、僕……傍にいたいです』
マロンが子供姿でシーツ内に出現し、よしよしと彼を撫でている間に意識が薄れた。あれれ、解毒剤飲んだのに……思ったより症状がきつい。ヒジリが戻ってこないと自分の治癒は出来ないんだけど。医師が解毒剤持ってくるけど、間に合わないパターンを狙ってたのか?
嫌な想像が頭を過る。そもそも即死しない毒を大量に盛りすぎ……あ、適量が分からなかったとか? そんな素人が毒殺目論むなよ、迷惑だから。ぼやきながら目を閉じた。
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