97.英雄の帰還(3)

彼らの提案をひとつずつ検討して返事した。


「ヒジリは問題ないけど、コウコの背だと空だから見えなさそう。でもパレードが派手になるから龍の姿で浮いてて欲しい!」


『わかったわ』


 背に乗せるのは却下されたが役目があるので、嬉しそうに金瞳を輝かせた。自分も断れそうだと気落ちしている白トカゲに声をかける。


「ドラゴン殺しが、白ドラゴンの背に乗るのは絵的に違う気がするから、次の機会にお願い」


『しかたないですね』


 イグアナくらいのトカゲでも、しょげていると愛嬌があるものだ。ひんやりした鱗を撫でてやり、代わりの提案をする。


「あのさ、小型のドラゴンになれないの? 肩に乗れるサイズで、大きめの鳥ぐらい。それならオレの肩に乗ってパレードしよう」


『可能です』


 嬉しそうにサイズ変更して、イグアナ級巨大トカゲが肩乗りドラゴンに変化した。この聖獣のサイズの法則ってあるのかな。希望通りに変えられるとしたら、すごいチート能力だぞ。コイツらは何気に使ってるけど、自分の大きさが変わるって体験してみたいもん。


 巨人になって「人が蟻のようだ」って言ってみたい。ゴミじゃないぞ、蟻。あと逆に小さくなって、悪戯してみたいが、踏みつぶされる予感しかないな。


『あたくしも首に絡まっていこうかしら』


「いや、コウコの赤く美しい龍体を見せつけるには、空に浮いてる巨大な姿が一番効果的だ」


 褒め殺しで『首に蛇を巻くイタイ少年』扱いを回避する。ここは重要だ。戦場の連中は聖獣だと理解してるが、貴族や集まった沿道の人々から変人扱いは嫌だった。それにコウコは中央の国で初お披露目だからな……あれ、それだとスノーも一緒か。


 ちらっと視線を向けた先で、小型ドラゴンになったスノーがヒジリ相手に大きさや重さの調整をしていた。本人が気づかないなら、藪蛇にならないよう指摘しないのが賢い。振り返ると青猫が寝転がっていた。くねくねと身体を左右に揺すって、触ってみろと腹を晒す。


「くっ」


 これは危険だ。触ったら蹴られる予感がするのに、手が止められない。そして案の定、がしっと両手で拘束されて蹴られた。わかってたのに罠にハマるなんて――実家に猫がいたせいかも。


「ブラウはどうする?」


『僕はヒジリの上に乗るよ』


『断る』


 きっぱりすっぱり断られたブラウは、大して気にした様子なく丸くなった。


『影の中に入ってる』


『許さん』


 ヒジリ、厳しいな。


「隣を歩かせるか」


『え? 主は猫を理解してない。やだよ』


「よし、クビだ」


『歩きたくなっちゃった』


 オレ達のいつものやり取りに傭兵がにやにやしながら、班分けをしていた。先発組と捕虜を挟んだ後発組が、きちんと2つに分かれて並ぶ。街外れにある魔法陣は、見送りに来た人々が大勢いた。騎士や兵士が終わったので、そろそろ解散かもしれない。


「英雄さまぁ!!」


 突然の声に振り返ると、街の女の子がぶんぶん手を振っていた。ここにきてのモテ期到来か? でもリアムのが美人だ。しゅんとしながら肩を落とすオレに「男も手を振ってるぞ」とジークムンドが慰める。


「違うっての!!」


 同性愛疑惑は、リアムの性別を公表するまで解けそうになかった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る