118.異世界人と書いて非常識と読む(2)

「聖獣殿、狙撃手はどうなった?」


 リアムの質問に、ヒジリは何でもなさそうにとんでもない答えを返した。


『我が治療している間、スノーが結界を張った。ブラウとコウコが競った結果、狙撃手ごと建物を切り裂いて溶かしたゆえ、銃も犯人も残っておらぬ』


「犯人は残して欲しかったな~」


 これでは狙撃を命じた奴を特定できないじゃないか。そんなオレのぼやきを、ヒジリは不思議そうに受け止めた。


『なんだ、主殿は自ら手を下したい派か』


「物騒な言い方しない! そうじゃなくて、命じた奴に繋がる糸だから生かして捕まえて欲しかったの」


 丁寧に言い聞かせたオレに、足元から出てきたコウコが首をかしげた。


『そんなもの、とうにブラウが追ってるわ』


「追ってる? どうやって追うのさ」


『風の聖獣だもの。簡単よ』


『コウコ、主殿は異世界人(非常識)だ』


 今、副音声で非常識だって言わなかったか? または異世界人と書いて、非常識と仮名を振っただろ。顔を引きつらせながら起き上がろうとして、またヒジリに押さえられた。


『治癒の後は体力がない。動いてはならぬ』


 聞き分けの悪い子供に言い聞かせる態度で、ヒジリが体重をかけてオレをベッドに圧し潰した。うっ、苦しい。じたばた手足の先を動かして暴れていると、右手を握ったリアムが羨ましそうに呟いた。


「聖獣殿とすごく仲が良いのだな」


 寂しいと滲んだ声に、慌てて顔を彼女に向けた。青い瞳が伏せられている。ここにシフェルがいれば茶化すなりしてもらえるが、クリスにそれを望むのは酷だろう。


「オレが一番好きなのはリアムだから」


「本当か?」


「マジで、真剣に、本当だから」


 繰り返して納得させるオレは知らない。ドアの外はさらに沸いていたことを。頭を抱えて唸るクリスの苦悩を置き去りに、オレは必死にリアムを口説いていた。


『主、盛り上がってるとこ邪魔するね』


「邪魔するな」


 速攻で切り捨てて、握ったリアムの手を頬に押し当てた。熱があるのか、冷たい肌が気持ちいい。すりすりと頬ずりしてから、ちゅっと音を立ててキスをした。真っ赤な顔で手を預けたリアムが可愛い。やばい、この愛らしさでオレの嫁になるとか……暴走する未来しか見えない。


 照れてるのに、手を振りほどかないとこが本当に優しくて好き。


 うっとりしていると、下からベッドに飛び上がったブラウが顔によじ登ってきた。重いし苦しいし、毛皮が湿っててなんか臭い。


「臭いぞ、ブラウ」


『え? うそ、濡れたから? じゃなくって! 狙撃を命じた奴を見つけたよ』

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