217.破棄した契約、どうするよ(2)

『ご主人様!』


 感激したマロンに飛びつかれ、とっさに支え損ねて後ろにひっくり返った。慌てて手を伸ばすレイル、間に合わないと諦め顔のシフェル、ひっくり返るついでに蹴り上げた机……そして悲劇は起きる。


 ゴンっ! すごい音がして意識が遠のいた。なんかふんわり気持ちいい。そのまま気絶という眠りもどきに引き摺り込まれた。






「キヨっ!」


「マジか、なんて運が悪い」


「治癒はサシャか」


 様々な声が聞こえて、身体が揺られた。ぐらぐらして気持ち悪い。うっと嘔吐くと背中を温かな手が撫でてくれた。差し出されたコップの水を一口飲み、うつ伏せにベッドへ寝かされた。


「何やってんだ、うわぁ……ぐちゃぐちゃじゃねえか」


 サシャが手をかざすと、傷があるらしい後頭部が温かくなった。気持ち良くて眠くなるが、こういう場面は確か……。


『寝たら死ぬぞぉ!!』


 うん、これだ。いい仕事してるじゃん、ブラウ。


『うわぁああ! 僕のせいだ! 僕のせいでご主人様が死んじゃう』


「ちょっ」


 寝てる場合じゃない。マロンの泣き声と、宥めるヒジリの声が聞こえた。


『落ち着け、主殿は転んだだけだ』


『そうよ。あんたがいなくても転んだわ』


 それはない、何だそのオレがドジっ子みたいな設定。何もないところで転ぶ習性はないぞ。だがコウコの言葉に反論すると、マロンが気にするだろう。


 溜め息ひとつで聖獣達からオレに対する、不名誉への反論を飲みこみ、手招きした。


「マロン、おいで」


『でも……』


 迷って動けないマロンの声が震えている。早く来い。手を握っててやるから。そう思うのに、ずきずきする頭のせいで眠りそう。


「早く」


 急かしたオレの声に、他の聖獣が一斉に動いた。


『主殿の命令だぞ』


『そうよ、早く行きなさい』


『僕が代わりに行っちゃいますよ』


 ヒジリ、コウコ、スノーと説得したり脅したりと忙しいが、ブラウが止めを刺した。


『早く行けっての!!』


 蹴飛ばしたのだろう。傭兵達が開けてくれた道を転がってきた。オレと同じ姿なのに、ブラウのやつ遠慮がねえな。


『うっ……ご主人様ぁ』


「ごめん、手を握ってて」


 頼んだところで、意識が薄れる。ぎゅっと掴まれた手が温かくて、何かあと一言くらい……。気を失ってる場合じゃないっての。


 失血しすぎて目眩がする状況で、サシャが傷を塞いだと説明する。そんなに派手に切ったのか。そう思ったオレの背中に、のしっと重い物が乗っかってきた。


『主殿、少し痛むぞ』


 え、痛いのはやだな。抗議の声は掠れて聞こえなかったらしく、ざくっと何かが刺さった。


「ん……ぎゃぁあああああ! めちゃくちゃ痛え!!」

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