162.人気取り? やったもん勝ち(3)

「キヨはそんな心配しなくていい」


「そうだぞ、子供なんだから。もっと甘える側だ」


 いや、中身は24歳だからね。子供だから甘えろと……ま、いいか。それで。いきなりオレの説明だけで、今までの人生をひっくり返すような奴らじゃない。苦労して苦労して、やっとここまで来た。生きてるのが不思議なハード人生を送ってきたのに、休みがどうのと言われても困惑するだけだろう。


 こういうのは言葉じゃなくて、行動で教えるべきだ。戦場で誰かがケガをした時、見捨てずにちゃんと連れ帰って治るまで面倒を見る。見せて初めて理解するレベルの話だった。


「わかった。じゃあ……面接しようか」


 彼らの反応を見る限り、立て看板を見てすぐに人が集まる。そう踏んで歩き出した。




 結論から言うと、最後尾の人が見えなかった。予想外すぎて、漫画みたいに口を開けて阿呆な顔を晒してしまう。


「キヨの出した条件が破格すぎたんだよ。中には前の仕事辞めてきた奴もいるぞ」


「えええ?! なにそれ」


 転職しちゃうのかよ。この時期限定の仕事だぞ? しかも終わったら、そのあとの仕事を斡旋しないのに。並んだ人々を眺めながら、ひとまず魔法で整理番号を作る。


「ノア、ライアン。並んだ順番でこのカードを渡して。ケンカしたらその場で殴っていいから」


 これは暴動になりかねない。溜め息をつきながら指示を出し、続いてジャック達に面接を任せた。責任者が子供では舐められる。ゴツい強面のジャックとジークムンドは、2人とも顔に傷があった。ヤバイ人に見えるので、ケンカを吹っかけたり脅したりする奴が減るだろう。


 安易にそう考えたオレは、収納空間から引っ張り出した机と椅子を野っ原に並べる。まず自分たちの前に机、ジークムンドとジャックとオレ、ベルナルドの椅子。残った連中も勝手に草の上に座って寛いでいた。


 ノア達が戻った時に追加の椅子を出してもいいし、彼らに自分で出してもらってもいい。応募者側は人数が多いので、椅子なしに決めた。ここで文句言う奴なら、それもハネる一因として構わないと思う。


 きちんと仕事する人間が欲しいんだから。建物をさっさと建ててしまいたい。ついでに、騒動が大きくなるほど、ラスカートン公爵の動きが早くなって助かる。面接官役はベルナルドが向いてそうだが、目立ちすぎても困るのでオレの後ろに控えてもらった。


「ベルナルド、椅子座りなよ」


「いえ、主君を守る騎士は後ろに立つものですぞ」


 この調子なので、彼の分の椅子は後ろで余っている。公爵家の前当主が護衛として立ってるのに、自分達が座るのは居心地が悪いらしい。そわそわする2人に合図を送った。


 ――さっさと始めちゃって。

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