162.人気取り? やったもん勝ち(2)

「休みは絶対に必要だろ」


「生活費が足りなくなるぞ」


「ん?」


 どうも意見の相違が、思っていた方向と違う。ジークムンドの言葉の意味を考えた。休むと生活費が足りなくなる? それって給与の額が少ないんじゃね?


「2日働いて1日休みで、3日間ご飯が食べられて生活できるお金がもらえればいいじゃん」


「「「そんな職場はない」」」


 言い切った傭兵連中の中で、呆れ顔のノアがさらに言葉を重ねた。


「そんな優雅な生活が出来るのは、貴族くらいだ」


「うそ!?」


 この世界はブラック社会か! 知らなかった。そういえば、傭兵連中に「休みください」って申請されたことない。オレが休まないってことは、彼らも休んでないから……うちがブラック企業か!!


 前世界で回避した筈の社畜人生まっしぐらだった現実に、ちょっと目が泳いでしまった。


「お金に余裕があったら、休みたい?」


 こう聞いたのは、彼らの意識を確認したいから。休みがない生活をしてきた人は、休みをもらえると聞いたら、どう考えるんだろう。喜んでくれるのか。


「お金に余裕? うーん、わからねえけど働くぞ」


「いつ仕事がなくなるかわからねえし」


「そうだよな。金は貯めておかないと困るぜ」


「俺らの仕事は不安定だからな」


 彼らの言葉から滲むのは不安。食うや食わずで必死に生き抜いた孤児が、大人になった姿がこれなのだと泣きたくなる。自分がいかに恵まれ、贅沢な環境で我が侭を振りかざして生きてきたか。身にしみて知らされた。


 同情で泣くのは失礼だ。ぐっと拳を握った。彼らに必要なのは、同情じゃなく安心できる環境なのだ。ケガをしても衣食住が確保され、休日に遊ぼうと思える余裕が足りないなら、異世界人の特権でこの世を引っ掻き回してやろう。


「あのさ、オレは一緒に暮らしてる傭兵を家族だと思ってる。だからもし戦場でケガをしても、追い出したりしないぞ。ちゃんとご飯食べさせるし、部屋も使って構わない」


「キヨ、そんな甘いことを口にすると働かない奴が出る」


「そうだ。俺らだから聞かないフリしてやるけど、他の連中には言うなよ」


 福利厚生を口にしたら、突然みんなから責められた件について――そんなラノベタイトルが脳裏を踊りながら抜けていった。

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