29.手加減って難しい(2)

「色が変化しているぞ」


 覗いたリアムの動きと色の変化という単語で、最初に動いたのはノアだった。大きなバスタオルを取り出すと、頭の上に乗せる。くるりと手際よく包み込まれたオレは簀巻すまき状態になっていた。文字通り、手も足も出ていない。


「熱があるかも知れないから休ませる」


 そういう名目で連れ出される。簀巻きで肩に担がれて退場するオレに、傭兵達は拍手喝采だった。なんか英雄みたいだ。浮かされた頭でそんなことを考える。まあ、普通の英雄は簀巻きにされたりしないけどね。


 手を振り返してやりたいが、簀巻きの手は動かなかった。壁を直された寝室でベッドに寝かされると、タオルはそのまま上掛けになる。大人しく横たわったオレの乱れた銀髪を、ノアが取り出した櫛で梳きはじめた。マジ、オカンだ。多少女の子扱いされてる気がしないでもない。


「魔力酔いに近いが、キヨは魔力制御が苦手か?」


「ん……わかんない」


 生まれた時から魔力に馴染んで制御を覚えるこの世界の連中に比べたら、明らかに経験不足の下手くそだと思う。そう告げると「そうかもな」と納得されてしまった。


「リアムは?」


「あとで見舞いに来たいと騒いでたぞ」


 開いたままのドアをノックして声をかけるジャックが、大またに歩いてくる。ごつい体格で顔の大きな傷が目立つから、どう見ても荒っぽい人だ。見た目より気遣い上手なオトンだけど。


 折角ノアが整えてくれた銀髪を乱暴に撫でられる。擽ったさに首をすくめると、ライアンやサシャも顔を見せた。


「赤瞳対策を考えなくちゃダメか」


「魔力制御を完璧にマスターさせればいいんじゃないか?」


「出来ると思うのか?」


 眉を顰めたノアの言葉の直後、全員が失礼なハモり方をした。


「「「「キヨだぞ」」」」


 なに、そのオレだと無理みたいなセリフ。滅茶苦茶失礼なんだけど。むっと唇を尖らせた後で抗議しようとしたら、部屋に踏み込んできたレイルに唇を押された。指でぎゅっと摘まれた唇では何も文句が言えない。


「お前、また魔力増えてるぞ。キヨ」


 どうやって計測しているのか知らないが、呆れ返った様子のレイルがぼやく。タオルを跳ね除けて、レイルの指をぱちんと払った。


「ぷはっ、……なんで増えたってわかるのさ」


 何するんだと文句言うより先に、疑問が口をついた。まだ怠いが身体を起こすと、ノアがソファのクッションを投げくれる。背中にかって寄りかかった。


 甲斐甲斐しくお茶を差し出すノアは、本当にオカン属性だ。幼子の面倒を見るみたいに構ってくれるので、オレがまたニートになったら絶対にノアのせいだと思う。居心地良すぎるんだもん。

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