54.オレのために争わないで(2)
物騒な物言いをするくせに、レイルは本気で怒っていない。本気ならナイフを弾かず、ジャックの腕を切っただろう。そういうところは容赦ないタイプだと思う。
やっぱりここは、このセリフで行きたい。
ケンカをやめて、2人を止めて。せーの!
「オレのために争わないで!」
「「「はあ?」」」
あら~、当事者だけじゃなくサシャまで加わったか。
「前の世界で有名な歌詞だったんだよ、一度使ってみたくて」
正確には女を取り合う男2人に向けるから、私なんだけど。この場合、元ネタ知ってる奴がいないから問題ない。
『主、そこは私では?』
あ、元ネタ知ってた。ブラウがちらりと視線を向けてくるが、口元に指をあてて「しー」と封じておく。よくみれば影から半分身を乗り出したヒジリもいた。
「お前ら、戦場放り出して何してるの。赤龍は?」
まさか本当に全部放り出して来たんじゃないだろうな。そんなニュアンスを感じた彼らは、顔を見合わせてから溜め息を吐いた。すごくバカにされてる気がする。ヒジリの
さっと手を引いて避ける。
『主殿、髭は急所ぞ!』
「オレの腕を噛んだくせに」
『あのままでは間に合わぬのだから、仕方あるまい』
確かに地面に激突するのと腕一本なら、迷う余地はなかった。助かった今だから文句を言えるのだ。それでも我が侭承知でヒジリに飛びついた。すべすべの黒い毛皮を撫で回しながら、首に手を回して抱きつく。
「助かった。ありがとう……でも次は別の方法でお願いします」
『……善処しよう』
今の前半の間が、ヒジリも多少は悪かったと思ってくれたらしいと伝えてくる。頬ずりしていると、反対側からブラウが擦り寄ってきた。なにこのもふもふ天国!
「幸せそうなところ悪いが、まだ戦闘中だぞ」
首根っこ掴まれて、レイルに捕獲された。苦笑いする彼の雰囲気はさほど怒っている感じじゃなく、仕方ないと達観したような柔らかさがある。
「状況説明を」
仕事に絡んだ話なら、仕事モードで聞く。オレの態度に彼は納得した様子で、ベッドの隣にどかっと勢いよく座った。
「地図出せ」
「ん」
オレの地図を手にしたレイルが唸る。通常の地図は上下の方角が決まっているが、オレは使いづらいのでカーナビを参考に魔法で弄くった。つまり現在の方角が自動で上に表示される。その上、現在地機能があると知ったため、周囲の敵や味方を光る点で示していた。
これはまだ改良が必要だ。ヒジリの使った魔法を見て真似したんだが、敵も味方も同じ色で出てきてしまった。ヒジリは敵だけ表示したから問題なかったが、オレのように両方の陣営を表示するなら色分けは今後の課題だ。
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