12.淡い自覚(6)

 2倍……つまり、12歳の外見のオレは異世界に来て縮んだわけじゃなく、竜の属性相応の年齢に変換されたという意味だ。しかも成人後は10倍年を取らなくなる。


 そこで指を折って計算してみた。


 えっと……10倍ってことは、生まれて100年したら……成人が20歳として、2倍の40歳で成人する。残りの60年を過ごしても6歳しか老けない……つまり最初の100年で外見26歳。


 計算あってる、よな。


 不安に首を傾げながら、もう一度計算する。たぶん大丈夫だろう。だとすると、オレは年齢相応で24歳だから12歳の外見になったわけだ。


「犬や猫だったら、大人の外見で『転移』したってことか」


「転移、お前は魔法で来たのか?」


 互いに首を傾げ合い、その間に侍女が紅茶を注いだ。かなり時間を置いて、それぞれに納得した顔で頷きあう。


「……いろいろ違いがあるのは理解した」


「教えることがたくさんありそうだ」


 くすくす笑うリアムに釣られて気持ちが和らぐ。美しい黒髪が揺れるたび、気持ちも揺れる気がした。短くショートに整えた髪は、伸ばしたらどれだけ綺麗だろう。本当に女性なら良かったのに……。


 皇帝の婿になれると自惚れる気はないが、異性なら努力したと思うのだ。無駄でも隣にいられるよう必死に足掻いた筈――いや、これから足掻いて隣にいられる『友人』ポジションは狙おう!


「教えてくれる? リアム」


 大切な宝物のように名を口にする。人の名前を聞いて、その名前の響きに”美しい”とか”似合ってる”なんて言葉が浮かぶと思わなかった。そういうのはモテる奴が口にする言葉で、きっと慣用句と同じで決まった単語だと考えていたから。


 心の底から、本心でそんな『イケメンなセリフ』が浮かぶなんて。でも恥ずかしいから口に出せず、じっと目の前の少年を見つめた。


「もちろんだ。しばらく宮殿に滞在してもらう。魔力制御や戦闘に関してはシフェルに担当させよう」


 シフェルか。厳しそうだが、子供の外見に惑わされてる部分もあるから、うまくやれば平気だろう。何より、アイツは結構強そうだ。どうせ習うなら、上手な奴に習いたい。


「お前の護衛をかねて、下につける部隊を選ばねばならない」


「……部隊」


 大事おおごとになってるぞ。オレが希少種だからって護衛はともかく、素人の下に部隊なんか預けちゃダメだろう。全滅したら責任取れないし。

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