334.チート破れたり!?(2)

 戦隊モノを好きな人なら分かるだろう。魔法少女もそうだが、どうして敵に対して武器や攻撃の種類をバラすんだ? そんなの、対抗措置取られるじゃん。絶対負けるじゃんか。言わずに攻撃すべきだろう。卑怯? いいんだよ、正義な時点で卑怯なんだから。


『氷を食らえ』


『邪魔よ、スノー』


 氷を叩き付けるスノーの横から火を噴いたコウコが叫ぶ。うん、打ち消しあってる。順番を決めようか。


「ちょっとタンマ!」


「仕方ないな、早くしてくれよ。あとタイムのが響きが好きだ」


「うっせぇ」


 譲歩する敵に、シフェルが首を傾げる。タンマは古いって? サバゲー仲間が使ってたんだが、あれは古いのか。戦いの最中にタイム取ることは通常ないので、シフェルが知らないのも無理はない。だが異世界それも日本から来てれば、通じると思ったんだよな。よかった、よかった。


 集まってきた聖獣に言い聞かせる。


「いいか? 攻撃は順番だ。交互に行い、重なってはいけない。じゃないと打ち消しあっちゃうだろ」


『わかりました』


 しょんぼりしたスノーの後ろで、コウコは不満そうに頷く。ヒジリはのそりと後ろから寄り掛かりながら承諾の言葉を寄越した。その足下で踏まれる青猫が叫ぶ。


『僕を助けるのが先じゃない?!』


「その辺は聖獣同士の力関係にも波及するので、オレはノータッチで」


 手も出さないしコメントしない。話し合いが終わったので、今度は順番決めが始まった。攻撃順はコウコ、スノー、ブラウ、ヒジリだ。


「タイム終了で」


「おう、名乗りを聞いてやる」


 敵から名乗れと言われたら、オレが代表で名乗るべきか? ずいっと進み出た一歩を無視し、後ろからシフェルが口火を切った。


「私は中央の国、コンセールジェリン皇族にお仕えする近衛騎士団長シフェル・ライン・メッツァラ、公爵家当主だ」


 え?


「異世界から転生したチート魔術師、頂点とっぷ松永だ!」


 ん?


「ちょっと悪い。間に入るぞ、松永君のフルネームは?」


「松永頂点だ」


「いくつ?」


「16歳になった」


 きらきらネームだ。それもドキュン系? 頂点と書いてトップと読む。その心は……親が厨二だったかも。がくりと膝から頽れたい気分だが我慢だ。他人様のお名前を聞いて、失礼な対応をしてはいけない。笑ってもいけない。堪えるんだ。


「トップ君……だっけ? チートなの?」


「君をつけるんじゃねえ! それと、お前も名乗れ」


 これは失礼した。名乗り忘れてしまった。


「死ぬ前は聖仁だけど、今はキヨで通ってる」


 端的に余計な敬称や肩書きを全部外して名乗った。もう苗字も不要だし、今は違う家名がついてるし。その気遣いを後ろの近衛騎士団長が無にした。


「キヨ、きちんと名乗りなさい。相手に失礼ですよ。キヨヒト・リラエル・セイ・エミリアス・ラ・コンシェールジェリン殿下です。竜殺しの英雄であり戦争を終結させた救国の常勝騎士、すべての聖獣を従えるマスターであると同時に死神の二つ名をもつ実力者。北の国の第二王子殿下となり、養子縁組ののち皇族となり皇帝陛下の婚約者でもあられる。あなたとは違うのですよ」


 最後の一言も含めて、すべて余分な言葉だった。くそっ、恥ずかしい二つ名とか厨二じゃねえっての。恥ずか死ねる。ぐおお!! 両手で顔を隠したオレに、明らかに日本人の外見の彼は狼狽えた。


「なんでだ? 俺のチートが始まる前に、すでにチートをコンプリートしてやがる。さらに婚約者だと!? 許さんぞぉ!!」


 真っ白に燃え尽きたい。恥ずかしすぎる。日本人にこんな状況がバレるとか、しかも相手が厨二だなんて。


「キヨ、しっかりしなさい。何か魔法での攻撃でも?」


「お前の余計な一言アタックで、瀕死だよ、くそったれ」


 ぼやきながら、結界を三重に重ねた。トップはどこで銃を手に入れたのか知らんが、バンバン遠慮なく撃ってくる。それらを防ぎながら、破れていく結界の内側に新しい結界を張り続けた。2枚を一度に割るほどの威力はない。常に数枚重ね張りすれば防げる火力だった。


「オレのHPはゼロだぞ」


 主に精神的なダメージが大きすぎて、オレは戦意喪失していた。

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