30.増える魔力と罰ゲーム(3)

 なぜか真っ赤な顔でリアムに礼を言われてしまった。複雑そうな顔をしたシフェルが紅茶を飲み干してカップを伏せる。同じようにオレも飲み干してひっくり返した。


 リアムは「出掛ける」なんて穏やかな表現をしたが、出掛ける先は戦場だ。この世界に来たばかりの頃に体験したは実弾が飛んでくるし、魔力の篭もった弾に当たれば死ぬ。


「この怠いの、明日は治るかな」


 体調万全で臨みたいとぼやけば、ヒジリがのそりと立ち上がった。クッションを抱いたままのオレを後ろに押し倒す。前足で器用に押されたが、勢い余って頭を肘掛にぶつけた。滅茶苦茶痛い。


「ううぅ、何するんだよ。ヒジリ」


 痛いだろと涙目で見上げると、上に覆いかぶさったヒジリが顔を舐める。猫科の舌はざらざらしていて痛い。文句を言うために口を開いたら、口の中まで舐められた。


「ちょ……っ、あ……」


 なんだろう、襲われてるの? 性的な方向性で?? 


 状況が理解できないが、とにかく窒息しそうになって鼻で必死に息を吸う。苦しかったが、すぐに大きな舌は出て行った。涎だらけだし、口の中の涎を多少飲んじゃったし……最悪の気分でヒジリの顎を押しのける。


「……っ、ヒジリ~~!!」


 怒りの声をあげると、驚いて固まっていたシフェルが慌ててタオルを取り出した。丁寧に拭いてくれるタオルが、ひんやり冷たく湿っているのは嬉しい。気持ちいい冷やしタオルで顔や首をぬらした涎を拭った。


「ありがと」


「いえ……今のは、その……」


 シフェル、目を逸らさないで欲しい。オレは別に獣姦とかの変な趣味は持っていないから。


『頭痛も魔力酔いも治ったであろう』


 得意げに尻尾を振るヒジリの指摘に、そういえばと気付いた。身体がやたらと軽いし、あの気怠い感じもない。熱に浮かされたようだった頭もすっきりしていた。


 『肉食獣ヒジリと無理やりディープキス』という罰ゲームめいた心理的ダメージを無視すれば、気分も悪くないのが……なんだか悔しい。


「治ったけど……」


『どうした?』


「他の治療法はないの?」


『ない』


 断言されてしまったので、項垂れて「ありがとう」と礼を口にした。礼を言わないなんて最低だし、こんな罰ゲームの後に礼を言わされるのも最悪だ。


 ふとリアムが静かなことに気付いて顔を向けると、困惑した表情のシフェルの前で固まっている。刺激が強すぎたのか、戻ってこれないみたいだ。

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