156.すみません。出来心でした(3)
「あー! あ、あーっ!」
数回声を出して、きちんと聞こえると告げた途端、ベルナルドがほっと力を抜いた。抱っこされたオレを落とさないのが、忠義の人っぽくてイメージと合う。ぽんぽんと彼の上腕筋を叩いて、おろして欲しいと伝えた。立派な筋肉を見ると、うろ覚えの知識で呼んでしまう。
「無茶はなりませぬぞ、我が君」
「……キヨヒトって呼ぼうか。なんだか恥ずかしいから『我が君』は禁止」
ヒジリみたいじゃないか。まあ、聖獣は注意しても聞かないから放置するとして、明らかに年上の人に言われると恥ずかしい。特権階級生まれなら、平然と受け止めるのかも知れないな。あとでリアムに聞いてみよう。
「かしこまりました。キヨヒト様。御尊名を口にする許しをいただき……」
「ストップ! あのさ、ジャックやジークみたいに、キヨだけで呼ばない?」
「無理ですな」
一言で却下された。解せぬ、オレが主人だろう? なぜ却下されたのか。
「じゃあ、命令で」
これならどうだと、伝家の宝刀を抜く気分で向き合えば、困惑顔で「はぁ」と抜けた答えが返った。簡単に納得しない様子だが、反発するほどでもないようだ。
「わかりました。キヨ様」
どうしても「様」は譲れないとごねるので、主人らしい広い心で譲った。正確には押し切られた。長男だったから、祖父母に可愛がられて育ったんだよ。なんとなくお年寄りに優しく……が染み付いていた。
呆れ顔のシフェルの指示で、衛兵が貴族と貴族未満を回収していく。縛り上げて引きずられる貴族は「侯爵家の名に騙された」だの「私は悪くない」と叫ぶ声が煩い。責任転嫁もほどほどにしてもらおうか。
「自分は悪くない? 騙された? どうみても侯爵本人じゃないのに、なぜ口車に乗ったんだよ。おかしいだろ、貴族名鑑を覚え始めたばかりのオレにだって、当主じゃないとわかったのに……いざとなったらラスカートン家に責任を擦りつけて逃げようって腹が見え見えだ。カッコ悪い真似した罰だから」
舌打ちして一気に捲し立てると、傭兵連中に「よしよし」と頭を撫でられた。これで事件は片付いた。オレの孤児院予定地は安泰だ! そう思ったのに、ベルナルドが意外な事実を口にした。
「ところで、キヨ様。ここは間違いなく、我がラスカートンが管理する所有地です。なんらかの手を打たれる方がよいのではありませんか」
「「「はい?」」」
シフェルとオレ、真後ろにいたノアがハモった。
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