156.すみません。出来心でした(2)

「血が繋がってるんだろ? オレは片付けを命じたが、殺せと言った覚えはない」


 声を出したことで、ようやく顔の強張りが楽になった。笑顔を消したので、きりっと凛々しい美少年の出来上がりだ。自分しか言ってくれないのが哀れだが。


 屁理屈を捏ねた子供を、周囲は盛大に勘違いした。同じ血が流れる弟を使って忠義を試した、ラスカートン前侯爵ベルナルドに対する通過儀礼だ。殺さずにもっとひどい片付け方をするんじゃないか? など。


 オレが極悪非道の人でなしみたいな言い方するなっての。人聞きが悪いだろうが。引き立った顔が笑顔だったのは、誤解の種でしかない。


「余裕がおありのようですな、英雄殿。……っ、死ね!」


 震える声で嫌味を言った男は遠慮なくトリガーを引いた。銃声が響いて……大きな音に耳を押さえる。万能結界と名付けたくせに、防音つけ忘れた。 


 馬鹿な! そう叫んだ……かも知れないが、後ろの声は聞こえない。


 耳がキーンとして、他の音が少し遠くなった。片手落ちだが、結界は結界。しかもオレの結界は『戦場で実績を示した防弾』機能付きだ。こないだの夜会でも大いに役立ってくれた。そして今回も、銃弾は弾かれて足元に転がっている。この世界でお役立ちの魔法ベスト3に入る優秀さだった。


 シフェルは予想していたらしく、呆れ顔で動かない。傭兵達もオレの結界の威力は知ってるから肩を竦めた奴らと、攻撃に転じるため銃やナイフを構えた連中に分かれた。


 後ろの弟を含めた貴族達を叩きのめしたベルナルドは「ご無事でしたか」と安堵の息をつく。オレの手足を触って確認し、耳を押さえる手を撫でた。


「……で、ぞ」


「ん? 聞こえない」


 正確には「よく聞こえないから、もう少し大きな声で」だが、言葉を省略しすぎたため、鼓膜を傷つけたかと焦るベルナルドにお姫様抱っこされた。ふわっと浮いた身体に驚いてしがみ付いてしまう。腕の筋肉がご高齢の方とは思えないくらい、硬くてゴツい。


「え?」


 言葉が聞き取れないのに、一方的に話しかけて抱っこで移動とか……恐怖しかない。あたふたする間に、どこか建物へ運び込まれた。ジャックとノアが付いてきて、何か説明を始める。すぐにサシャが追いついた。ソファに下ろそうとして、ベルナルドが止まる。


「……だから、……できる」


「本当……、……か?」


 少しずつ耳も回復してきた。耳元で大きな音がしたから一時的に麻痺した機能が、徐々に戻ってくる。その上、サシャが治癒魔法を施してくれたため、音が戻る。

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